緑色のワインボトルが、床に落ちた。
半分ほど残っていた中身が、瓶の口から波打って溢れ出す。毛足の長いグレーの絨毯に、赤い染みが広がる。
床にはワインボトルのほかに、肉片や野菜が散らばっていた。少し前に運ばれたディナーの、ステーキやサラダだった食材だ。
倒れたディナーワゴンを挟んで、男と女が向かい合っていた。シャワーを浴びた後なのだろう。ふたりとも、バスロープを羽織っている。
女の手にはディナーナイフが握られている。室内の照明を反射して、鈍く銀色に光っている。ナイフの切っ先は、男に向けられていた。
「待て、落ち着いて話そう。まず、そのナイフを置くんだ」
押しとどめるように、男は両手を前に差し出す。
女は何も答えない。男を凝視しながら足を踏み出す。赤いペディキュアを塗った爪が、ワインを吸った絨毯で濡れた。女は男との間合いをじりじりと詰める。