人生も後半戦! これから先も楽しもう!

人生も後半戦になったら、これまでの生き方に後悔することもあります。しかし、後悔しても仕方ない。この先楽しく生きるためにいろんなことに挑戦

小説の書き出し 柚木裕子さんの最後の証人より

 

 緑色のワインボトルが、床に落ちた。

 半分ほど残っていた中身が、瓶の口から波打って溢れ出す。毛足の長いグレーの絨毯に、赤い染みが広がる。

 床にはワインボトルのほかに、肉片や野菜が散らばっていた。少し前に運ばれたディナーの、ステーキやサラダだった食材だ。

 倒れたディナーワゴンを挟んで、男と女が向かい合っていた。シャワーを浴びた後なのだろう。ふたりとも、バスロープを羽織っている。

 女の手にはディナーナイフが握られている。室内の照明を反射して、鈍く銀色に光っている。ナイフの切っ先は、男に向けられていた。

「待て、落ち着いて話そう。まず、そのナイフを置くんだ」

 押しとどめるように、男は両手を前に差し出す。

 女は何も答えない。男を凝視しながら足を踏み出す。赤いペディキュアを塗った爪が、ワインを吸った絨毯で濡れた。女は男との間合いをじりじりと詰める。