何を作ろうか。気持ちのいいからりとした秋の朝。早くから意気込んで台所へ向かったものの、献立が浮かばない。
人生の一大事を控えているんだから、ここはかつ丼かな。いや、勝負をするわけでもないのにおかしいか。じゃあ、案外体力がいるだろうから、スタミナをつけるために餃子。だめだ。大事な日ににんにくのにおいを漂わせるわけにはいかない。オムライスにして卵の上にケチャップでメッセージを書くのはどうだろう。また優子ちゃんに不気味がられるのがおちかな。ドリアに炊き込みご飯にハンバーグ。この八年で、驚異的に増えた得意料理を頭に並べてみる。何を出しても優子ちゃんは、「朝から重すぎるよ」と言いながら残さず食べてくれるだろう。でも、きっと、今日は話が尽きない。冷めてもおいしくて、簡単に食べられるものがいい。
「卵料理はみんないろいろ作ってくれたけど、森宮さんのオムレツは固まり具合がちょうどよくて一番おいしい」
いつか優子ちゃんはそう言ってたっけ。そうだ。ふわふわのオムレツを挟んだサンドイッチにしよう。そう決めると、バターと牛乳、そして、たくさんの卵を冷蔵庫から取り出した。