小説家から学ぶ表現、描写 堂場瞬一さんの被弾より
あらかた骨組みだけになった家を、炎が舐め回す。顔が熱い。飛び散る火の粉が足元に落ち、野次馬の中から悲鳴が上がる。
体中のネジが緩んでしまうのではないかと思えるほどの酒を飲まされたものである。
私は目をつぶり、記憶の底をさらった。
一台の車が雨の中を静かに走ってきて、私たちの車を追い越した。ヴォルヴォのワゴンだった。大友の家の前で、つんのめるように急停車する。同時に家のドアが開き、鍵を閉めるのももどかしい様子で出てきた大友が、車に飛び込んだ。ヴォルヴォが、タイヤを鳴らして急発進する。
受付から声をかけられた。二人同時に、ばね仕掛けのように立ち上がる。
「いや。そういうわけしゃないが」短い答えに、山口はわざとらしく謎めいた雰囲気をまぶした。
岩隈がにやにやと笑う。隙間の目立つ歯が覗いた。何となく嫌悪感を感じ、私は一歩後ろに下がった。
白く輝く月が、中天から光を投げかける。穏やかな光は私を暖め、心の中に積もるもやもやした思いを、ゆっくりと浄化していくようだった。
突然、背中から抱きしめてやりたい、という衝動に駆られた。なだらかな肩、細い腰を強く抱きしめ、髪の中に顔を埋めたい。
「あいつはな、犯人を撃ち殺したんだ」
何か言うとしたが、その言葉は私の喉の奥に貼りついた。
冴は静かな一言で私の熱弁に水を引っかけた。
「変な人」
顔には、不信感と恐怖、それに好奇心が微妙に入り混じった表情が浮かんでいる。
「ありがとう」冴がさらに、笑顔の目盛りを上げる。
私は、デパートの横に陣取った五人ほどのグループに近づいた。スケートボードの車輪が、敷きつめたレンガを乱暴に引っかく音が、夜の静寂を破って響く。そこに時々、笑い声や、仲間同士でからかい合う笑い声が混じった。
道路を挟んで、冴と目が合った。なぜか挑むような、怒ったような視線を、彼女がぶつけてくる。時折行き交う車が、私たちの視線のぶつかり合いを寸断した。その度に私は、なぜか狂おしい気持ちを抱きながら、彼女の視線を取り戻そうと必死で目を凝らす。
土曜の夜だというのに、駅前の通りは人気も少なく、誰かの靴がアスファルトを打つ音さえはっきり聞こえた。
私は、彼女がマンションのエントランスに吸いこまれて行くまで、ぼんやりと背中を見送っていた。
冴が車に乗りこみ、エンジンをかける。野太い排気音が駐車場に響くと同時に、水を撥ね上げながら、インプレッサが走り出した。自主規制値一杯の二百八十馬力に、アスファルトに食いつく四輪駆動システム。
冴が小さく鼻を鳴らす。私は一つ咳払いして、理不尽にも思える彼女の怒りを散らそうとした。
脇田が、怒りを無理に押し殺すように目を細め、私を睨み付ける。
強くなってきた雨が、カメラのフラッシュの中で細い糸のように浮かび上がる。