三橋は、その巨漢をソファに同化させていた。ベルトを緩め、ズボンのチャックも中程まで下ろして下腹の肉を解放し、丸太のような両足をテーブルの上に投げ出している。
ちょうど遠山は、犬の散歩から戻ったところだった。鵜飼と同年輩の、フラスコのような体型の男だ。
平野瑞穂。巡査を拝命して五年目の二十二歳。今風の小顔美人だが、色素が薄いとでもいうのだろうか、瞳も髪も茶系色、総じて淡い印象の娘である。
今度は、はっきり能面の口元が笑った。
この空は長持ちせず、夕方には雨になるのだと、FMラジオの『ヤマモト』は自信たっぷりに言う。そう吹き込まれて目線を上げれば、確かに、遠くの空にはどんよりとした雲が寝釈迦像のようにあって、山々の連なりの面白さや、すっかり色づいた山頂から中腹にかけての眺めを台無しにしている。
「部長、お気持ちを聞かせてください」
二渡は、狭まった気道を無理やり開く思いで言った。
尾坂部は黙っていた。
怒りがじわじわ這い上がってくる。
二渡は波立つ心を抑え、瞬く間に地上に下り立つと、県警本部へ重い足を向けた。
「専務は、今日はどちらへ?」
二渡が訊ねると、宮城は、えーと今日はですね……、と口ごもり、壁の白地図に視線をふらつかせた。
Fビルまでは、歩いて五分ほどだ。街並みから頭を突き出した、その近代的な半官半民ビルは、水色がかったミラーガラスが、刻々流れる雲を映して美しい。