柚月裕子さんの盤上の向日葵の描写
同じ東北でも、岩手よりさらに北の土地は、まだ冬の真っ只中だった。目の前に見える青森湾が灰色に沈んでいる。同じ色をした寒々しい空に、数羽の白鳥が飛来していた。
頭に被っている白い帽子と、口元を覆っているマスクの隙間から見える目は、泥のように濁っていた。陰気でどんよりとして、生気がなかった。
徳田は太い眉を顔の中心に寄せて、うーん、と唸った。
男は眼鏡の奥の小さな目を線のように細めて、人の好い笑みを漏らした。
抑えようとしても隠しきれない喜色を顔に滲ませた。
空は寒々とした鈍色の雲に、覆われている。