浅黒い顔に、眼元が涼しく、清廉な人柄が滲み出ている。
首が見当たらないほど醜く太ったその男
肉づきのいい太い首がねじれて、何本もの皺が寄っている。
道路にぽっかり開いた大きな穴の中に、陽に灼けた男がひとり立っていた。上半身だけが道路から上に出ていて、首にかけたタオルで額の汗を拭いている。白いランニングシャツが汗でぴたっと体に張りついて、遠目でも胸の筋肉が盛り上がっているのがわかる。男は眩しそうに目を細めて、雲ひとつない青空を見上げた。
だんだん近づくにつれ、男の輪郭がはっきりしてきた。甘いマスクに長髪が似合っている。
恭しくお辞儀をして出迎えてくれた蝶ネクタイの店員は、六十歳くらいだろうか。姿勢が良く長身で、細身の黒いスーツが似合っている。
剃りあがった坊主頭にぎょろりと大きな目の小男で、日焼けした顔の皺を見る限りでは五十代の後半というところだ。ユニオンジャックがプリントされた、サイズの大きすぎるTシャツに、裾がぼろぼろのジーンズを着て、首にピンク色のタオルを巻いている。
弁護士の脇屋は五十絡みで、身なりに一切構わない男だった。スーツとワイシャツはサイズが合わず、突き出た腹がはちきれそうになっている。ワイシャツの袖口は汚れ、襟は不自然に曲がり、ネクタイには皺が寄っている。髭の剃り残しも目立った。髪型はパンクに傾倒した野口英世という感じで、ウェーブがかかって膨れ上がっている。
仕立てのいい背広に、地味な濃紺のネクタイ。ワイシャツの袖から覗く腕時計は非常に薄い、上品なものだった。
信州バスの常務の小菅元が、しきりに額の汗を拭う。ハンカチはくしゃくしゃだ。会議室の照明を受けて、だいぶ広くなった額には拭い切れない汗が光っている。
目が開いているので寝ていないのは分かるのだが、視線が虚ろで、何かが見えているとは思えない。頭にはネット型の包帯。半白の無精髭が、顔の下半分を覆っていた。
風貌はえらく変わった。バレーボールの選手だから当然背は高いのだが、恰幅がよくなったというか、腹だけ出てしまったというか……巨大な洋梨のような体型になっている。
ひょろりとした痩せすぎで貧相な瓜実顔をしている。顎の下にたくわえた髭が却って童顔を引き立たせて、残念ながら大人の顔にはとても見えない。
生え際の後退した頭、酷薄そうな眉と唇、歳は四十代だろうか。親しげな口調とは裏腹に、まるで敗残者を見下すような優越感丸出しの目をしている。
小柄だが筋肉質な男で、スーツの肩の辺りは今にも弾けてしまいそうなほど張り切っている。
間島は小柄で、まるで頭にずっと重石を載せられていたように首が短い。上半身、特に肩の辺りにはみっちりと肉がついているが、それに比して下半身は貧弱だった。
細い顔に、太い黒縁の眼鏡が浮いている。眉毛が半分白くなっていた。
ゆっくりとドアが開いた。その向こうに皺と染みだらけの顔があった。
三十歳前後だろうか。彫りが深く、目つきが鋭い。いかにも正義感が強そうな印象を受けた。
眞鍋睦雄 ー 肩書きは最高裁判所長官。
白髪交じり、額に深い皺が刻まれているが、瞳の奥底からは揺るぎない光を放っている。
「おらあっ、三味線弾いてんじゃねえぞおっ」
どこか粘液質な怒号に振り向くと、教官の一人が雷也を小突いていた。瓜実顔に三白眼、事前に雷也から聞いていた人相と一致するので、これが柿里という教官に違いない。
歳の頃は五十前後。特徴的なのは眉だ。太く、一直線で厳つい。頬や目尻が垂れ下がれているのに、その眉だけで乱暴な印象を受ける。
上品で仕立ての良いスーツ。びっしり撫でつけた銀髪と叡知を堪えた瞳。まるで森のフクロウを思わせる風貌は一年前と変わりなかったが、頬からは幾分肉が落ち、眼光もあの時よりは弱々しくなっていた。
男には確かに見覚えがある。容姿はおろか、服の趣味まであのときと同じだ。猫背の小男、目立つO脚、乱杭歯。厚手でチェックの入ったジャケット、ハンチング帽。
細身で長身、グレーの髪をきっちり分けて、銀縁メガネをかけている。上着は脱いでいる。白いワイシャツにネクタイ、きっちり折り目の入ったズボン。
白くなった髭が顔の周囲を覆っているが、柔和な瞳のせいで、いかめしい印象はない。
短く刈り揃えた髪、細い目、真四角な顎。顎の髭剃り跡が赤くなり、二、三か所に血が滲んでいる。何となく印象の薄い顔で、名刺を交換しても、次に会った時には同じことを繰り返してしまいそうなタイプに見えた。てかてかと光る素材の薄いコートを羽織っているが、前のボタンは開けたままで、地味なネクタイが、体の真ん中で揺れている。
小柄で痩せた少年だった。体に合わない大きめのブレザーの制服姿で、乱暴にあちこちが突き出た髪型は、ヘッドフォンで半分潰されていた。
四十五歳という年齢を感じさせない若々しさだ。腹は板のように平らだし、膝の下で切ったジャージから覗く脛やふくらはぎも硬く引き締まっている。
ずんぐりした体型で、顔は丸く、大きい。そのくせ目は糸のように細い。頭髪は短くて薄く、そのせいで五十歳近くに見えるが、実際はもっと若いのかもしれない。身なりは気にしないたちらしく、いつも同じような服ばかり着ている。
大声を張り上げながら、舅がリビングに入ってきた。下着のシャツがズボンからはみ出ていて、薄い髪が乱れに乱れ、地肌が見えていた。
ジーンズもシャツも古びてはいるが、洗い立てのような清潔感がある。笑うと、すべてを包み込むような柔和な表情になる。様々な国で苦労を重ねた勲章なのだろうか。深い優しさと男らしさを兼ね備えているように感じられて、なんとも魅力的だった。
七十代くらいだろうか、眼鏡をかけた男性で、骨と皮だけでできているのかと思うほど痩せているが、年齢の割には動作が機敏で滑舌もいい。
機動捜査隊の古手の警部補、池畑という男が見つかった。四角い顔に、ごつごつした手、角張った上半身。髪は、地肌が透けて見えるほど短く刈り上げている。
六十代も半ばになっているはずだが、ダンガリーのシャツに薄いベージュのコットンパンツという若々しい格好だった。髪はすっかり白くなっているが、まだふさふさしている。
残り少なくなった白い髪が、頭の天辺(てっぺん)でふわふわと揺れた。
後部座席には、新手の東南アジア人が座っていた。スペイン系らしい。手入れの行き届いた口ひげ、造形に凝り過ぎて滑稽にも見えてくる妙な形のサングラス。彼は手振りひとつで、そばにいた阿久津を下がらせた。
男はゆっくりと近づいてくる。背が高く、浅黒い肌、角張った顎。髪は短髪。
今日もきちんとダークグレーのスーツを着こみ、ネクタイを綺麗なえくぼができるように締めている。シャツは薄いパープル、ネクタイは小紋の散った濃紺と、洒落っ気と生真面目さの中間で絶妙なバランスを取ったようなコーディネートだ。
アイルランド系のこの男は、角張った細長い顔に銀縁の眼鏡をかけて冷たいイメージを作り上げ、決して笑わない。
Aは三十歳。半分目が開いていないものの、生気に満ちた顔つきで、いかにも女にもてそうである。ジーンズに青いシャツ一枚というラフな格好で、シャツのボタンはへその上まで開いていた。綺麗に割れた腹筋が覗く。
スティーグ・ラーションだとすぐに分かった。冗談のように目立つ体形なのだ。上から圧縮したように背が低く、丸々している。長年の不摂生の結果は、一目見たら忘れられない。白くなった髪の毛は、両耳の上にわずかに残っているだけで、ふさふさの髭を生やしているのは、顔全体の毛の総量バランスを保っているつもりかもしれない。
改めて見ると、男はごく普通のビジネスマンといった風体である。背広にネクタイ、薄手のコートの前をはだけているので、突き出た腹が目立つ。年の頃、四十歳ぐらいか。金髪は既に薄くなりかけており、額が広かった。
現れたのは二十代後半ぐらいに見える、太い黒縁メガネの男だった。自然に伸ばした長めの直毛で、顔の半分ほどが隠れていた。
中央にいる男が声をかけてきた。「あんたが奥野侑也って人?」
髪は古風なリーゼント気味のオールバックに仕上げている。額に刻まれた二本の深い皺と太い眉、がっしりとした顎を持つ、大銀杏が似合いそうな大男だった。
ヴァルダロスは皺に埋まった細い眼をさらに細めて忠告したものだ。
藍川は、八月に一度だけ会った長瀬の風体を思い浮かべた。肘が出て、皺だらけになったジャケットに、膝の抜けたコットンパンツ。耳を覆うほどの長さに髪を伸ばしていたが、髪形を主張するというほどのものでもなく、ただ床屋に行く金を惜しんでいるようだった。そしてあの、上目遣いの視線。こちらの財布の中を透かし見ようとでもいうような、粘りつく目つきだ。
坂崎がすっと顔を上げ、にやりと笑う。歯並びが悪いな、と沢崎は改めて思った。病的に痩せており、ワイシャツがだぶついている。髪はきれいにオールバックに撫でつけ、夜十時近いこの時間になってもてらてらと光っていた。
でっぷりと太った愛嬌のある体形で、オフィスのドアから自分のデスクまで歩くだけで息を切らしている。冗談のように大きな黒ぶちの眼鏡と蝶ネクタイがトレードマークで初対面の人間は誰でも、疲れて健康上の問題を抱えた初老の男というイメージを抱く。
二十八歳だといっていたが、かさかさで薄くなった髪と、顔全体に浮き上がった脂を見て、とてもその年齢には思えなかった。
北見先生は白い長袖の綿シャツを、裾を外に出して着ていた。下は洗いざらしのチノパンで、白いソックスがスリッパとの間から見えた。
老人が一人ぽつんと椅子に腰かけていた。一見して演出家のような役割をしているように思える。ずんぐりむっくりとした体型で、長い銀髪を後ろで縛っている。
あごひげを生やし、頬や目の下がたるんだ気難しそうな顔立ちをしている。歳は七十前後か。いかにも芸術家という風貌であり、また、野性的にも見えた。
髪の毛は見事に白くなっているが、背筋が伸びていて物腰に品があった。
部屋の入口に北見先生が姿を見せた。いつもの優しい笑顔で、若々しく柔らかい声だった。ゆったりとした綿のズボンにクリーム色のVネックセーターを着ている。背丈は辻と変わらないくらいだが、背筋が伸びてすらりと見える。
向かいに北見先生が座る。歳は四十前後というところだ。艶のある前髪が眉毛の上までかかっている。髪の毛は全体にボリュームがあり、耳も半分隠れている。多少白いものが混じっているあたりも柔和に見える。目尻の皺も優しげだ。
カーテンが半分開き、ごつごつとした身体つきの男が背中を丸めて入ってきた。背丈は百八十センチはないくらいか。以前はもっと大きく見えたが、だんだんと肉が削げてきている感じがする。
滝中はスーツ姿だった。短い髪は白髪が混じって乾いていた。頬骨の張った四角い顔をして、双眸が大きい。
高江社長はだらしなく口を開けて顔を上げた。五十を過ぎてすでに前頭部がはげ上がり、ちりちりの髪を無造作に伸ばした男だ。小柄で小太り、いつでもゴルフに行けるような格好をしている。もさっとした感じの中年だが、青いフレームの眼鏡が業界的な軽さを覗かせている。
一見して蛇を思わせる男だった。吊り上がった眼に頬骨が張り、顎が三日月型にしゃくれている。髪は地肌に張りつくような短いパンチパーマだった。身体にぴったり仕立て上げたスーツを着て、イタリアもののネクタイを結んでいる。首にはいくつもの筋が走っていた。
山田さんはセーターに革の短いコートを羽織っていた。四十五、六という年齢よりはもう少し若く見える。
銀色のフレームの眼鏡をかけ、癖のない髪はサラリーマン風に短くこざっぱりとまつまっている。中肉中背で荒とそれほど変わらない体格である。
四角い顎と、張り出した頬骨と、意志の強そうな眉。頭はツルリと磨かれたスキンヘッドで、蛍光灯の光を見事に反射させている。
敬礼しながらそう訊いた嶋田巡査部長は、痩せて背の高い男だった。浅黒い肌に白髪交じりの髪、目と口がとても大きくて、笑うと顔中に皺が寄る。
本当に怒っているときは眉間に描き込んだような見事なシワが二本立つ。やや後退気味の額は血色良くつるりとしているので、縦に刻まれる二本がやけに目立つ。
たった二本のシワだが片山を打ちのめすには充分だった。
四角い顎と、張り出した頬骨と、意志の強そうな眉。頭はツルリと磨かれたスキンヘッドで、蛍光灯の光を見事に反射させている。
小柄な清水のカクカクした動きを見ると、比奈子はなぜか、カラクリの茶運び人形を思い出す。
署長に呼ばれて別室へ行ったガンさんは、しばらくしてから男を連れて戻ってきた。男は四十がらみで厳つい体に四角い顔、ギョロギョロとよく動く大きな目玉を持っていた。
小柄な体躯に白い肌、色素の薄い虹彩。中性的で、時折どこか淡い印象を醸し出すその医者は、四人の顔をざっと見るなり、「面談を希望の橋田さんと、そのご家族ですね。桐子です」と言った。
「最後の医者は桜を見上げて君を想う」より
福原雅和は大股で渡り廊下を歩いていた。健康的に日焼けし、逞しく引き締まったその長身、端正な顔に意思の強さを感じさせる瞳。時折すれ違う職員や患者に会釈しながら、真っすぐに進んでいく。
「最後の医者は桜を見上げて君を想う」より
白衣の若い医者が浜山を見て座っていた。大きい顔に対しアンバランスなほど小さな目は、分厚い黒縁眼鏡による錯覚だろうか。もしくは、その上で存在感を示している太く黒い眉のためか。
胸のプレートには「赤園」と名前があった。
「最後の医者は桜を見上げて君を想う」より
内科医、音山晴夫は太り気味の腹を揺らしながら、汗を拭き歩いていた。ただでさえ丸顔なのに、軽く汗を含んだ髪が輪郭に沿ってしな垂れており、その頭は満月のように綺麗な円形に見えた。肌の血色は良く、頬などは赤く染まっている。
「最後の医者は桜を見上げて君を想う」より
肩まで伸ばした髪には栄養が行き届いていないようで、しなやかさの欠片もない。その下に隠れた頬は、ノミで抉ったように陰になっている。
初老の男だった。ジャージの上下というラフな格好で、丸い腹が生地を突き上げている。短く刈り上げた髪はすっかり白くなり、顔の筋肉が全体に弛んでいた。