肩に手を置かれて振り返った。形の良い唇がまず目に飛び込んでくる。中国美人を連想させる少し吊り上がった目が、拓也の顔を見つめていた。黒い喪服を着ていると、墨絵から抜けだしてきたようだ。 東野圭吾さんのブルータスの心臓より

矢野は佐山より九歳年下で、まだ、二十代である。背が高く、厚みのある体格をしている。ふだんから鋭そうな目をさらに輝かせて、初めての殺人事件捜査に張り切っていた。 東野圭吾さんのブルータスの心臓より

遺体の確認に現れた敏樹は、ひと目見て自分の息子だと断言した。多少息が乱れてはいたが、こういう事態に直面しているとは思えぬほど落ち着いた口調だった。ただハンカチを握りしめた右手だけは、終始震えたままだった。 東野圭吾さんのブルータスの心臓より

「……どうしましょう？」 ようやく橋本が声を出した。犬のように荒い息をしている。 東野圭吾さんのブルータスの心臓より