笑い顔、笑みの表現、描写を小説から学ぶ
元は大声で笑う。三島も口の端で笑った。 柚月裕子さんの暴虎の牙より
壮貴は唇の片端を上げるような笑みを浮かべ、身体を小刻みに揺すった。 東野圭吾さんのクスノキの番人より
淡い光沢の黄色いネクタイを締めている。おそらくどちらもシルクだろう。腹が出ており、整髪料で固めた髪に白いものが混じっている。 小さな一重の目尻には、人懐っこい皺が刻まれていた。 柚月裕子さんの合理的にあり得ないより
ベージュのパンツスーツに身を包み、小ぶりのボストンバッグを手にしている。長いまつ毛が切れ長の目に陰を落とし、形のいい唇は微かに笑みを湛(たた)えている。日本人形のように整った顔立ちだった。腰まであるストレートの黒髪が、東洋的な神秘さを醸し出…
日岡は上着の内ポケットから財布を出し、万札を一枚テーブルに置いた。 予想より多かったのだろう。金払いがいいと思ったらしく、千手の顔に生臭い笑みが浮かんだ。 柚月裕子さんの凶犬の眼より
男はカウンターにいる大上を見つけると、垂れ目がちの目尻をさらに下げて、嫌な笑いを浮かべた。 柚月裕子さんの孤狼の血より
しばらくすると人の気配がして、珠暖簾のあいだから、腰の曲がった年配の女性が顔を出した。八十近くだろうか。老女は大上の姿を認めると、皺に囲まれた垂れ気味の目尻を、一段と下げた。 柚月裕子さんの孤狼の血より
リーチの顔に光の綾のように笑みが広がった。 原田マハさんのリーチ先生
あの時、翔人は初めて、婆さんが声を出して笑う姿を見た。顔をくしゃくしゃにさせて、天井を仰ぎ見るようにしながら、婆さんはケタケタと笑っていた。 乃南アサさんのしゃぼん玉
ピンクエプロンが、またにんまりと笑う。目尻にくっきりとした皺が何本も寄り、のぞいた前歯の片方はまたも縁取り金歯だ。 乃南アサさんのしゃぼん玉
「返事しなさいってば」 唇だけで笑う弓子の顔が間近に迫る。 中山七里さんの静おばあちゃんにおまかせ
葛城の躊躇を見てとったのか、財部は悪戯っぽく目尻を緩ませてこう言った。 中山七里さんの静おばあちゃんにおまかせ
円が横浜で見聞きしたことを逐一報告すると、静はからからと笑った。 中山七里さんの静おばあちゃんにおまかせ
「飯がすんだら散歩にでもいくか。土手の桜がちょうど見頃じゃろう」 婆さんは、ころころと嬉しそうに声をたてて笑う。
それを聞くと彼は少しこわばり気味だった表情をほぐし、目尻に何本か皴を作って笑ってみせた。 東野圭吾さんのあの頃の誰かより
「どうしたの? そんなに私が怖いの?」女は頭をのけぞらせ、口蓋の奥までを露にしながら笑い続けた。 髙野和明さんのK・Nの悲劇より
吉田はふっと笑いを口元に点して、 原田マハさんの美しき愚かものたちのタブロー
唇をいっぱいに左右に引いた、奥歯まで見えるほどの明るい笑み。幼い頃によく見ていた、夕花の本当の笑みだった。 森沢明夫さんのおいしくて泣くときより
なんだか、平和で穏やかな午後だな。 わたしは笑みの欠片を口角に残したまま、何気なく窓の外に視線を向けた。 森沢明夫さんのおいしくて泣くときより
「すごいね、心也、お父さんみたいだね。ありがとう」 心也の顔に子どもらしい笑みが咲いた。 森沢明夫さんのおいしくて泣くときより
マダムはその場ですぐに封を開け、一読すると、ふっと口もとに笑みを寄せました。 原田マハさんのジヴェルニーの食卓より
神経質そうな細面に奧二重の目。そして薄い唇。その唇が三人の姿を認めた途端に弧を描いた。 中山七里さんのヒポクラテスの憂鬱より
痩せ型の栄太郎とは対照的に夫人は丸々と太っていて、満面の笑みを浮かべた両頬には、大きなえくぼが浮かんでいる。 古内一絵さんのキネマトグラフィカより
「わぁ、美味しそう!」 留美が感嘆の声をあげる。その表情に陰りがないことに、咲子はそっと胸を撫で下ろした。 ふと、麗羅と眼が合った。切れ長の奥二重が、三日月のようにしなう。 咲子は思わず微笑み返す。 古内一絵さんのキネマトグラフィカより
「どうしたの? なんか随分静かだね」 深い石榴(ざくろ)色に彩られた唇が、緩やかな弧を描く。 古内一絵さんのキネマトグラフィカより
「そうでしょうね。何もかも包み隠さず、というわけにはいかないでしょうし」七尾は意味ありげに微苦笑した。夕紀の苦悩を理解している顔だった。 東野圭吾さんの使命と魂のリミットより
望は目を細くして苦笑した。両頬にえくぼが出来た。 東野圭吾さんの使命と魂のリミットより
百合恵の口元がぴくりと動いた。だが彼女はまず唇に薄い笑みを浮かべ、それから口を開いた。「そうよ」抑揚のない口調だった。 東野圭吾さんの使命と魂のリミットより
良然の口は滑らかな弧を描いている。 ただし目はいささかも笑っていなかった。 中山七里さんの死にゆく者の祈りより
こちらに振り向いた顔は巨魁に似合わぬエビス顔で、ただでさえ細い目が微笑むと線のようになる。 中山七里さんの死にゆく者の祈りより