2022-09-08から1日間の記事一覧
はいはい、と言いながら、婆さんは笑顔のままでお茶をいれる。ほとほとと、快い音をたてて熱い緑茶が湯呑みにおちる。
「飯がすんだら散歩にでもいくか。土手の桜がちょうど見頃じゃろう」 婆さんは、ころころと嬉しそうに声をたてて笑う。
「こんなにいい天気ですから大丈夫ですよ」 たしかに、庭はうらうらとあたたかそうだった。
「おつゆがさめますよ」 わしはうなずいてお椀を啜った。小さな手鞠麩が、唇にやわらかい。
わしはぽっくりと黄色い玉子焼きをもう一つ口に入れ、そうだったかもしらん、と思う。そして、ふと箸を置いた瞬間に、その二十年間をもう一度生きてしまったりする。