酒、飲み物の表現、描写
コーヒーが運ばれてきた。香ばしい匂いが鼻腔を刺激する。松宮は、まずブラックで啜った。程よい苦みが全身の細胞を覚醒させてくれるようだ。うまいな、と思わず呟いた。 麒麟の翼 (講談社文庫) 作者:東野 圭吾 講談社 Amazon
はいはい、と言いながら、婆さんは笑顔のままでお茶をいれる。ほとほとと、快い音をたてて熱い緑茶が湯呑みにおちる。
そして細い指で包みこむようにしてプラスチックのコップに口をつける。今朝のグリーンスムージーは小松菜に洋梨とバナナをミックスして作ってみた。 99のなみだ・蛍
拓実は少しためらった後、グラスに手を伸ばした。それを口元に運んだだけで甘く濃厚な香りが鼻孔に触れた。ちょっと舐めてから口に含んでみる。その香りを凝縮したような味が心地よい刺激と共に舌に広がった。 東野圭吾さんの時生より
デキャンタからグラスに赤い液体が注がれた瞬間、これはいいな、と戸神行成は感じた。グラスを回した後、内側に付着したワインが静かに落ちていく様子を眺めた。彼のイメージに近い速度と粘性だ。さらに回しながら匂いを嗅ぎ、一口含んだ。しっかりとした味…
ふたつのグラスにウイスキーがそそがれる。水も氷も入れない。琥珀色の液体をそのまま透かすガラスに見とれた。理由のない乾杯をして、喉に流し込む。わたしの喉の形通りに流れ落ちていく熱が心地いい。飲み込んでしまったあとも豊かな香りが広がる。 凪良ゆ…
グラスに琥珀色のお酒をそそいで、静かに喉に流し込んだ。強烈な香り。熱が喉を滑り落ちていき、行き着いた先の胃がじわじわと熱くなっていく。そこに臓器があるのがわかる。お酒を飲んで、生きていることを実感したのは初めてだった。 凪良ゆうさんの流浪の…
「ええと、じゃあ、ビールを。黒ビール、あるかな」 「ギネスでいいですか」 「もちろん」 カウンターの内側でママはしゃがみ込んだ。冷蔵庫があるようだ。 ギネスの瓶が出てきた。彼女は栓を抜き、タンブラーに黒ビールを注いだ。うまい注ぎ方だった。クリ…
肝心のウォッカ・ギムレットは、霜のついたグラスに、注ぐ先から細かに泡立ってゆくほどよく混ざっていて、よく冷え、よくアルコールの角が削れていて、風味にまろやかな輝きが感じられた。 平野啓一郎さんのある男より
壜(ビン)についた霜が、握りしめた手のかたち通りに水になって垂れた。グラスに注いだウオッカは、とろみがつくほどよく冷えていて、口の中に甘い熱のような刺激を広げた。鼻を抜ける匂いに、子供の頃に、初めて「アルコール」というものを意識した予防接種…
唇から注ぎ込んだ瞬間、鼻腔にふわりと広がる香ばしさ。次いで感じたのは、そっと舌をなでるような甘みだった。丹念に炒られた豆だけが生み出せる絶妙な清涼感が、刺々しくなりがちな後味を上手にフェードアウトさせている。 間違いない。これぞまさしく、か…
カウンターの上にある鍋敷きにやかんを置き、傍らの樺細工の茶筒のふたを開ける。さらさらと音を立てて、深緑色の茶葉が白無地の急須の中にこぼれていく。そこにゆっくりと回しながら湯を注ぐ。 こぼこぼと湯の落ちていく音、深遠な響きに、紫紋の耳がとらわ…
僕はナップザックの中からブランディーを入れた薄い金属製の水筒をとりだし、ひとくち口にふくんで、ゆっくりとのみ干した。あたたかい感触が喉から胃へとゆっくり下っていくのが感じられた。そしてそのあたたかみは胃から体の隅々へと広がっていった。 村上…
ポン、と栓を抜く音がして、深緑色のボトルが差し出された。シャンパングラスを金色の液体が満たしていく。 原田マハさんの旅屋おかえりより
プシュッと音をたててプルタブを引き上げ、どうぞ、といって内海薫が缶ビールを草薙の前に置いた。 「おう、サンキュー」顔の前に掲げてから、ほろ苦い液体が舌を流れる感触に、一日の疲れがほどよい快感に変わる気がした。ふうーっと太いため息をつく。 東…
ミリが、冷たい水滴が留まっているボトルクーラーから黒いボトルを取り上げて、ネゴのシャンパングラスに金色の液体を注いだ。ドン・ペリニョン・プラチナ一九六九年は、景気づけにボスが仲間たちに贈ってくれた一本に違いなかった。 原田マハさんのアノニム…
女はギブソンが気に入った様子だった。時折細いカクテルグラスの底に沈んだパールオニオンを眺めては、形のよい唇に流しこんでいった。一口飲んでは味を記憶に留めようとするかのように瞼を閉じた。 東野圭吾さんのダイイング・アイより
グラスを受け取ると、慎介は息を整えてから一口飲んだ。ほどよい苦味が口中に広がっていく。全身の細胞が覚醒していくようだった。 東野圭吾さんのダイイング・アイより
実験が一段落したので俺は自動販売機のアイスコーヒーでも飲むことにした。自動販売機が紙コップを吐き出し、そこへ砕いた氷を落とし、濃縮したコーヒーと水を適量ずつ注ぐ間、俺は窓から外を眺めた。 東野圭吾さんのパラレルワールド・ラブストーリーより
きんと冷えていて、信じられないほど口当たりが良い。炭酸のさわやかな喉越しに、ウイスキーの苦味、レモンの酸味が加わり、胸に冷たくて香りの良いミストが広がっていくかのよう。ほろ苦さがなんとも口にすずしい。 柚木麻子さんのあまからカルテットより
雪子さんは冷凍庫から背の高いグラスを次々に取り出す。うっすらと霜に覆われているそれに、氷をぎっしりと詰め込む。ウイスキーを注ぎ、続いてウィルキンソンのソーダ水を静かに加える。しゅわしゅわと気持ちの良いかすかな音が広がった。マドラーで軽く縦…
白く長い指で大ジョッキを握り締め、細い首をのけぞらせてビールをあおる咲子に、三人の親友は驚いたように見入っていた。 「なんか、こういうの新鮮だねっ! ぷはあー」 柚木麻子さんのあまからカルテットより
ティアラの作ってくれた水割りはちょうど良いバランスで、きんと冷たく、するすると面白いように喉をすべり落ちていく。 柚木麻子さんの本屋さんのダイアナより
園子は唇をとがらせて紅茶の湯気を飛ばすと、熱そうに啜った。 東野圭吾さんの宿命より
バーボンの瓶と氷が入ったグラスがすぐに出てきた。指二本分注ぎ、グラスを揺らして氷に冷たい音を立てさせる。一息で呑み干し、すぐに新しく注いだ。直美が軽いしかめ面を浮かべてこちらを見ているのに気づき、グラスを軽く振って見せる。 「大丈夫、二杯で…
渇いた咽にビールがしみ渡った。ひどく苦い。理不尽な味だ。 浅田次郎さんの鉄道員(ぽっぽや)より
グラスをぐいっとあおった。液体が熱をもった蛇のように喉もとを落ちていった。 ピカソとバルドは、どちらも黙りこくったまま、ドラの喉が生き物のように蠢(うごめ)くのを眺めている。 原田マハさんの暗幕のゲルニカより
「そいじゃま、ひとつ」 言うや否や、瓶の口を一気に傾けた。「あ」と声を上げるのを無視して、角度を固定し耳を澄ます。とくとくとくと小気味の良い音が鳴り響くと、皆も口を閉じた。 ぎりぎりのところまでスピードを緩めず、溢れる一歩手前で瓶の口を上げ…
「乾杯!」 かちん、とグラスが合わされたあと、つかの間の静寂。喉を滑り落ちる酒のきりりとした風情に、俺は思わず目を閉じる。 坂木司さんのウインター・ホリデーより
「そんなにうまい酒なのか」 「香りが抜群によくて、喉ごしは辛口。でも飲んだあと、なぜか口の中がほんのり甘いんです」 もちろん後に残ったり、悪酔いなんてしません。俺がそう言うと、ボスはごくりと喉を鳴らした。 坂木司さんのウインター・ホリデーより