2021-01-29から1日間の記事一覧
車はやがて、海岸通りの手前にぽつんと建つ店の前で止まった。真白にペンキを塗りたくられた二階家で、出窓には豆電球が点滅し、いかにもそれらしい名前の看板を掲げている。煙るような雨の中で、ネオン管がジイジイと鳴いていた。 浅田次郎さんの鉄道員(ぽ…
走り出すとすぐに駅前の家並は尽き、道の両側は畑と雑木林ばかりになった。緩やかな丘陵を海に向かってまっすぐに下る。闇の涯(はて)に流星のようなヘッドライトが行き来している。そこはたぶん海岸通りで、松林の向こうは海なのだろう。 浅田次郎さんの鉄道…
細かな春の雨が、煙のようにサーチライトを巻いていた。 浅田次郎さんの鉄道員(ぽっぽや)より
乗客のあらかたは木更津で降りてしまった。コンビナートの眩(まば)ゆい光が遠のくと、列車は真暗な海に沿って走った。 浅田次郎さんの鉄道員(ぽっぽや)より
渇いた咽にビールがしみ渡った。ひどく苦い。理不尽な味だ。 浅田次郎さんの鉄道員(ぽっぽや)より
列車は地上に出た。湾岸の高層ビルに灯がともり始めていた。春の雨が車窓を斜めに縫っている。 浅田次郎さんの鉄道員(ぽっぽや)より
店屋物の器がどの部屋の前にも堆(うずたか)く積まれた廊下を歩き、事務所のインターホンを押すと、ドアの上に取り付けられた監視カメラに向かって吾郎は笑いかけた。 浅田次郎さんの鉄道員(ぽっぽや)より