2021-10-15から1日間の記事一覧
店主と思われる男はカウンターの中にいた。髭を生やし、長く伸ばした髪を後ろで縛っていた。 東野圭吾さんのダイイング・アイより
樫本は怪訝そうな顔で近づいてきた。値踏みするように目を小刻みに動かしている。 東野圭吾さんのダイイング・アイより
たくさんのジグソーパズルが独りでに組合わさっていくように、慎介の頭の中で記憶が形を整えていった。漠然としていたものは、その輪郭をはっきりとさせ、乱雑だったものは順序よく並び、欠けていた部分は補充されていった。 東野圭吾さんのダイイング・アイ…
やがて建物が見えてきあ。タワーという名にふさわしく、四角い塔が夜空に突き刺さって見える。周りにも超高層マンションがいくつかあり、この一帯だけが異国のようだ。 東野圭吾さんのダイイング・アイより
「どうせ、肝心なところは信用しないくせに」少年はいった。 「えっ、どういうこと?」 だが少年は答えず、横を向いたままだ。十代特有の反抗心が横顔に張り付いている。 東野圭吾さんのダイイング・アイより
「一体どういうことなんです。何だって今さらそんなこと訊くんですか」慎介は声に少し苛立ちを含ませていった。 東野圭吾さんのダイイング・アイより
慎介は女の目を見た。妖艶な輝きを帯びた目が、見つめ返していた。ネコ科の肉食動物を思わせる危険な光も同居している。 東野圭吾さんのダイイング・アイより
「この店はたしか」彼女は慎介の目を見つめた。「午前二時まで、だったわね」 「そうです」 「ふうん……」女の唇に意味ありげな笑みが滲んだ。 東野圭吾さんのダイイング・アイより
「残念ながら芸能界とは何の関係もないの」 「そうなんですか。じゃあ、わからないな。答えを教えてくださいよ」 「さあ、どうしましょう」女は蠱惑的な眼差しを向けながら、顔を少し傾けた。 東野圭吾さんのダイイング・アイより
女はギブソンが気に入った様子だった。時折細いカクテルグラスの底に沈んだパールオニオンを眺めては、形のよい唇に流しこんでいった。一口飲んでは味を記憶に留めようとするかのように瞼を閉じた。 東野圭吾さんのダイイング・アイより
サラリーマン風の男で、丸い顔に比べて少し小さすぎるように見える眼鏡が、鼻の下で微妙に傾いていた。 東野圭吾さんのダイイング・アイより
慎介は再び彼女の携帯電話にかけてみた。だが状況は昨夜と同じだった。 風で木の枝葉がざわざわと揺れるように、突然胸騒ぎがし始めた。 東野圭吾さんのダイイング・アイより