堂本は、爬虫類のような動きのない表情で、言質を取られぬよう最小限の発言しかしなかった。
ぎょろりとした眼に、慈父のような励ましの表情を浮かべた。
「ごめん。なんだかちょっと疲れとるみたい」
熟練している作り笑いを頬に載せる。
突然、大庭の顔に侮蔑の色が浮かんだ。生ゴミでも見るように冷ややかに俺を一瞥した。
「……お前、ちょっと待て。コラ」
凄みのある低い声で言った。老婦人の顔が紙のように白くなる。
なぜか彼女の顔には喜色が浮かんでいる。
小さな鼻の穴を広げて、自慢げに話す表情がかわいらしかった。
深井の顔に暗い影が過る。何かミスをしたのか、怯えているようだった。
「取り敢えず呼ばれた」
「後山さん?」敦美が左の眉だけくいっと吊り上げる。
「ああ」
「無茶するわね、あの人。あなたまだリハビリ中じゃない」
長い顔には、少し間の抜けた表情が浮かんでいる。
入江に渡したのは一枚の写真である。
受け取った入江の顔色は変わった。いや、むしろ表情が削げ落ちた。
勝った。そう思った。
「そうやってとぼけていられるのも今の内よ」
樹里の笑みが皮肉に歪む。
目元を拭うと泣きそうなことを認めるようで嫌なのか、鼻の先で必死に涙をこらえている。
目元を拭うと泣きそうなことを認めるようで嫌なのか、鼻の先で必死に涙をこらえている。
柏木は一瞬痛いところを衝かれた顔をしたが、その表情はすぐに押し殺された。
入江の顔には、笑顔に似た表情が刻みつけられたままだ。
「こんな時に誰だ。ったく!」
腹立ち紛れに液晶画面を見た表情が歪む。
「何だ、この番号。非通知だぞ……」
そのまま携帯電話を耳に当てると、歪んだ表情に訝しさが加わった。
ランタンの光に浮かび上がる本田の表情は凝固したまま動かない。
携帯電話を握り締める石井の手が強張った。顔からは血の気が引き、唇がぎゅっと引き結ばれる。
石井の喉仏が大きく上下した。目を細め、眼鏡の奥から私を睨みつける。唇は糸のように引き結ばれていたが、やがて意を決したように口を開いた。
米岡町子は少し臆したように顎を引き、上目遣いをした。
話しかけられた都筑の顔から、憑き物が落ちるように動揺の色が抜け落ちていく。
その凝固した表情からは相変わらず感情を窺い知ることができない。
御子柴は渡瀬をじろりと一瞥すると唇の端を歪めた。
錦織の顔からは先ほどまでの作り笑いがすっかり剥げ落ちている。
家で見る夫とは違い、長年の会社勤めで鍛えられた社会性を前面に出し、微笑みさえ顔に載せていた。
「ところでマリ江さん、お願いがあるんですけどね」
岩清水は笑みを消した。「今のことを、ほかの人にには言わないでおいてあげてほしいんですよ」
能見は唇をひん曲げて、答えとした。
能見は眉をすっと上げた。「見事だった」
屈託を顔に載せて、加治は言った。「あいつはどんな具合だ」
真希の頬に力がこもり、筋が入った。そのうち、息が荒くなっていく。真希は歯を食いしばった。
韮崎の瞳の中に、福顔にはそぐわない暗い輝きが宿った。その口の端には冷笑。
柔らかな笑みが美知子の顔を包む。
南城は唇を嘲笑に歪めた。
カッと手塚の頬に朱が昇った。不本意そうに表情を歪めて黙り込む。
南城は唇を嘲笑に歪ませた。
分厚い眼鏡の奥で、松田の目が糸のように細くなった。
私たちの方に滑ってきた。二メートルほどの距離を置いて立ち止まる。彼の目が、細く黒い線のようになった。
「分からない」今まで聞いたことのない硬い口調であり、表面の強気の膜が割れて、戸惑いが透けて見えた。
「警察?」薄い髭が浮いた顔をしかめ、私たちを交互に見上げる。「警察に用はないけどね」
山口は重々しく顎を引き締めてうなずく。
岩隈がにやにやと笑う。隙間の目立つ歯が覗いた。何となく嫌悪感を感じ、私は一歩後ろに下がった。
私を見る冴の顔に、うんざりした表情と、何かを期待する表情が入り混じった。
顔には、不信感と恐怖、それに好奇心が微妙に入り混じった表情が浮かんでいる。
訝しげな表情を浮かべたまま、少し離れた場所にいた冴が歩を進める。
岩隈は、薄い笑みを顔に貼りつけたまま、ブルゾンのポケットに両手を突っ込み、探るように私の顔を見た。
「まあ、のんびりやってくれよ」皮肉な笑みを唇の端に浮かべ、水島が言う。「焦ることはないからさ」
振り返り、草薙を見た。顔に不審の色が広がっていた。
「そうですけど……」彼の視線が、素早く草薙の全身を舐めた。
「いらっしゃいませ」靖子は湯川に向かって愛想笑いをし、次に石神のほうを見た。その途端、驚きと戸惑いの色が彼女の顔に浮かんだ。笑みが中途半端な形で固まった。
「よう」男は笑った。目の両端に皺が寄っている。
彼女は頷いた。顎に決意の梅干しができている。
ジーンズもシャツも古びてはいるが、洗い立てのような清潔感がある。笑うと、すべてを包み込むような柔和な表情になる。様々な国で苦労を重ねた勲章なのだろうか。深い優しさと男らしさを兼ね備えているように感じられて、なんとも魅力的だった。
相変わらず喜怒哀楽のどれひとつとして読みとれない能面のような顔だった。
男性二人が、品定めするように、瞬時に上から下まで盗み見たのを春花は見逃さなかった。彼らは急いで愛想笑いを顔に載せ、がっかりした表情を隠した。
冨所が音をたてて唾を飲み込んだ。木の瘤(こぶ)のような喉仏が、大きく上下する。
私が言うと、五嶋は顔をしかめる。目の上の筋肉がひくひくと引きつった。
無言で、父が振り返る。色濃い疲れと、老いの兆候が、顔の隅に浮かんだ。
警察だと名乗ると、深い皺と染みに埋もれた顔に不機嫌そうな表情を浮かべ、もぐもぐと何事かつぶやいた。
私に気づくと、喜美恵の顔に温かい笑みが広がり、夏の朝、花が咲くように唇が開いた。
緑川が、デスクに肘を乗せ、頬杖をついた。遠慮がちだが、自信に溢れた笑いが浮かんでいる。何だ? 緑川のこんな表情を見るのは初めてだ。どこか、馬鹿にするような顔つき。若僧が、という台詞が薄い色で顔に書いてある。
緑川が、愛嬌のある丸い顔に大きな笑顔を浮かべた。
たかが顔をしかめる。皺の中に表情が消えた。
「そうなのか?」星の顔から、つっけんどんな表情が少しだけはがれ落ち、好奇心がちらりとのぞいた。「あんたも町の者だと思うのかね?」
小谷は眉を八の字にし、下唇を突き出した。
世津子は困ったように眉の両端を下げた。
美咲の唇の端がわずかに持ち上がった。皮肉に笑おうとして、ぎりぎりで思い止まったのだと分かる。
自分の存在価値そのものを否定されたように、下唇を突き出して情けない顔つきになった。
里香が白い息を吐きながら出て来る。顔には薄い笑みがはりついていた
「まあ」丸く肉の溜まった顔に笑みの皺が広がった。
ケブィンが部屋の中に滑りこみ、音を立てずにドアを閉める。鍵をかけるのも忘れなかった。アダムの姿を認めると、右の眉を小さく上げてみせる。
武山がすっと顔を上げる。口がへの字に曲がり、血の気のない唇はかすかに震えていた。
「そんなことは自慢にも何もならない。僕の質問に答えるんだ」藍川は表情を消してルイスの顔を見据えた。
「そうなんだ。それは偉いね」
先生はそういうと、口の横を少し上げながらしばらくゆきを見つめていた。
どうして相談してくれなかったのか、と責める恋人に、自分の甥のことだから相談する必要はないと思った、と答えた。
その瞬間、恋人の表情にシャッターが下りたのが分かった。
教室がざわめき、美人な担任の笑顔には動揺の大きな亀裂が入った。
ついに言い負かされたか、稲葉リカが顎に梅干しを作りながら「たいへん柔軟でいらっしゃるかと……」と口を濁しながら引き下がった。
見る間に表情が沈み込む。ーーけっこうわかりやすい人かもしれないな、と空井はそのリトマス試験紙のような顔色の変化を見守った。
本当に怒っているときは眉間に描き込んだような見事なシワが二本立つ。やや後退気味の額は血色良くつるりとしているので、縦に刻まれる二本がやけに目立つ。
たった二本のシワだが片山を打ちのめすには充分だった。
片山が訊くと空井はキッと眦(まなじり)を釣り上げた。「バカにしないでください」とこんなときばかりはパイロットの顔に戻る。
仮設した広報本部のテントで報告を聞いた柚木は柳眉(りゅうび)を逆立てた。
言い放った瞬間、リカの表情がひび割れた。
これほど急速に人の顔から血の気が引くところを見たことはない。
「答えられることと、答えられないことがあります」
「それじゃ困るんだ」北は眉間に皺を寄せる。深い皺には、名刺が何枚も挟めそうだった。
おじいちゃんは腕組みをして、しばらく首をひねったまま固まってしまった。眉間に皺を寄せて考えてはいるけれど、でも口元も、目元もやわらかで、微笑み一歩手前、といった表情だ。きっと、いま、おじいちゃんは、おばあちゃんとの思い出のなかを旅している。
吉池はしばらくその場に立ち止まったまま、上野が手渡したクリップボードに視線を落としていた。眉間に皺が寄り、白いものが混じった眉毛が二匹の毛虫のように捻じ曲げる
吉池は、顔にふやけた笑いが張りついているのを意識した。
黒い枠の中では、恩師が爬虫類のような目で音山を睨んでいた。眉間に入った一本の皺、百足のように太い眉毛と髭、そして突き出た下唇。知らない人からすれば、いかにも厳しい人間に見えるだろう。
長椅子で眠っていた倉島が体を起こしたところだだた。長い前髪を掻き上げながら、テーブルに置いたメガネを取る。端正な顔つきの倉島は寝乱れた髪も色っぽく、広げた手でメガネを直す仕草も様になる。