「寝てていいよ、飛行機長くて疲れたでしょう」
車を出したおかあさんに「大丈夫」とは言ったものの、小さな渋滞に引っかかって流れる景色が停滞すると、眠気がゆるやかに押し寄せてきた。
「リョウ! 晴子さんに失礼だろ!」
怒鳴った父を、ぼくは目玉が血を噴くんじゃないかというほど睨んだ。そんなふうに睨まれると思っていなかったのか、父がたじろいだように声を飲む。
どうしてあんなこと言うんだろ。祖母が晩ごはんを作りに来てくれたときにぼくが愚痴ると、祖母は鼻の頭にシワを寄せた。
「あんたのお父さんは根なし草だったからね。北海道が地元じゃないから土地に薄情なんだよ」
号泣する父を眺める祖母や親戚の目は、氷の針のように冷たかった。