視線、眼差しの表現、描写をおすすめ小説から学ぶ
「団交が終わりました、遅くなりご迷惑をおかけしました」
恩地が云うと、眼で頷き、
子供を見る優しい目つきではなかったからだ。女を品定めするときのそれだった。
からみつくような視線から目を逸らし、晴美は言った。
「お願いがあって来ました」
知子は、チャコールグレーの膝丈のワンピースに同色の七分袖のジャケット姿で、そのまま授業参観に出かけてもいいような格好をしている。形のいい小さな唇をグラスに触れさせながら、黒目がちな大きな目だけをこちらに向けた。
黒目がちな瞳が動いて、ちらりと俺の顔を見る。
突然、大庭の顔に侮蔑の色が浮かんだ。生ゴミでも見るように冷ややかに俺を一瞥した。
外を眺めていた小菅奈緒が、ふと目を細める。釣られて彼女の視線の先を追ったが、引き戸の向こうは相変わらずの土砂降りだった。
サングラスの奥の目を糸のように細めて、俺たちを順番に見つめた。
不意にぷつんと言葉が途切れる。俺が目を上げると、篠川さんはぎょっとしたように視線を膝に落とした。つややかな長い黒髪が頬を隠している。
「時間ある? うちでお茶でもどう?」
慈悲深さが滲んだような眼差しで見つめられた。
「ありがとうございます」
「……ええ」小菅の声が低くなる。うつむき、テーブルに視線を這わせた。
少女の睨みつける視線が一直線に刺さる。
「あんたたちこれからどうするの」
「あたしは当面辞める予定はないわね」
答えた由美に、彼女は絡むような視線を向けた。
「はいはい、そういうことにしときましょ」
からかうように言った入江に、秋庭がじろりと剣呑な視線を向ける。
その時、釣巻の視線が大きく真横に流れた。
盗み見が丸わかりだ馬鹿、と心中で呪いながらその視線の方向を見た鰍沢はぎょっとした。
七尾は山崎の目を見た。穏やかで光の乏しい瞳。だが、相対していると奥に熾火(おきび)のように暗い光源があるのが分かる。
御子柴は挨拶そこそこに二人に背を向け、待合室を出た。
それでも背中に視線が粘りつくような感触はしばらく消えることがなかった。
マリ江の非難の視線が頬に突き刺さるようだった。私はマリ江の姿が視界に入らないよう、身体の向きを微妙にずらした。
「管理官」
ふわふわ蠢(うごめ)く滝神の目玉が、南城に向かって固定された。
「どうやら、あんたは秋葉辰雄の親父に殺されるようです」
血の染み。桜田はやっとの思いで視線を引きはがした。
八田の目はしばらく東野の顔に張り付いていたが、やがてふっとどこかに外れ、しまいに地面へと落ちた。
桜田は入ってきた三人の顔を順番に見た。どの顔も顎が上がっていて、桜田を見下げている。周囲に畏怖(いふ)を与えようと胸を張りそして、自信に満ちている。
ーーーまるで取り調べじゃないか。
能見が彼らの面前にきたころには、彼らも能見に気づいた。気づいたが、立ち上がりもせず、声もかけてこない。ただ、見つめたり視線を外したりしている。
「ケンカでもしたのか」
姉弟は一瞬視線を交わした。
充が貧乏揺すりをやめて腰を上げた。何か言いかけ、思い止まり、ポケットに手を突っ込んで視線を遊ばせた。梢は落ち着かない視線のままで、裸の膝を抱いている。
能見はじっくりと甚一の顔に視線を注いだ。歪んだ笑み、悪意に溢れた瞳、落ち着きのない足元。
能見は腰を上げ、詰め寄りながら威嚇の視線を当てた。能見はまだ二十前半だった。男はくつくつと笑った。
能見と韮崎の視線が引き結ばれた。
能見は頷き、遠くへ視線を飛ばした。
冴の視線が、私の視線と絡み合う。
薄い膜に包まれたように濁った沢口の目が、一瞬だけ光ったように見えた。
道路を挟んで、冴と目が合った。なぜか挑むような、怒ったような視線を、彼女がぶつけてくる。時折行き交う車が、私たちの視線のぶつかり合いを寸断した。その度に私は、なぜか狂おしい気持ちを抱きながら、彼女の視線を取り戻そうと必死で目を凝らす。
「いいえ」里子は顎に手を当て、挑むような視線で、冴を通り越して私を見た。「そんなこと、ありませんよ」
駐車場で冴に追いついた。インプレッサのドアに手をかけようとしていた彼女が振り向き、小さな炎が燃えるような目つきで私を睨みつける。
脇田が、怒りを無理に押し殺すように目を細め、私を睨み付ける。
振り返り、草薙を見た。顔に不審の色が広がっていた。
「そうですけど……」彼の視線が、素早く草薙の全身を舐めた。
「警察の……」靖子は目を見開いた。大きな黒目が揺れた。
「ひとり暮らし?」
「はい、まあ」
「へえ、いいおうちの奥さんって雰囲気だけどね」
そう言いながら、東洋子の全身に目を走らせる。
彼が一瞬視線をさまよわせた。ピンと来る。ーー今、ソロバンを弾いた。
これ以上言っていいものかどうかと迷うように、女性は宙に目を泳がせた。
「えっ、おばあちゃん、知らないの?」
知也の瞳が左右に揺れた。「やべ。俺もしかして、余計なことばっかしゃべってる?」
細い、冷たい目。その目からは、父が何を考えているのか、読み取ることはできない。
見知らぬ人物に訪ねてこられ、目の前の女性が窺うような視線で答えた。
彼女の瞳に宿った真摯な光はおれを惑わせた。
「分かっています。説じゃしょうがない、説じゃね……」瞳に暗い光がさす。「だがこの説が、真実だと確信している。」
口元は緩んでいるが、柚木の目には鋭い光が宿っていた。下手なごまかしはきかないぞ、と威嚇的に語っていた。
緋田は老眼を補うように目を細めて写真を見た。
「できましたら、二人だけで」柚木はいった。「人には聞かれたくない話です」
緋田は目元に警戒の色を浮かべて柚木を見た後、「じゃあ、事務所で話そう」といって引き返した。
この質問に小谷は答えず、身体を預けるように椅子にもたれた。分厚い一重瞼の下で、細い目が動いた「緋田風美には会ってきたのか」
「判断するのはあなたです」ウォンが、感情を消した目で俺を凝視した。
まだ何か言いたげだったが、視線があちこちを彷徨い、気持ちが定まらない様子である。
冷たい視線は、その場の空気を二度ほど下げる。
新章房子は記憶を探るように視線を宙に漂わせた。やがて思い当たることがあったのか、首をゆらゆらと縦に振った。
「ほんとうなんだ。知らないことは、拷問されても打ち明けることができない。このような作戦の常套手段だろう?」
「確かにな」西和田と入江の視線が一瞬結び合わされた。どのような意図が込められた意志疎通だったのか、侑也には掴み取れなかった。
「明後日までには治るかもしれない」神宮寺が強気に言ったが、その視線は自信なさげに宙を彷徨うだけだった。
湯本は得意になって眼に剣を作った。ちょっとでも声に怒気を忍ばせると、相手は怯んで尻尾を垂れた。
「八年か九年か……十年近く前の話ですよ」
「それは……」
喉の渇きを感じた。
「顔にひどい火傷の痕がある男ですか?」
守年の問いかけに、平賀は強い視線を返してきた。
釜地が再び視線を湯本に向ける。湯本は無防備の顔を見られて、反射的に目を泳がせた。
自分の顔に今枝の視線が突き刺さってくるのがよくわかったが、守山は前を向いたまま黙っていた。
湯本を見据える眼だけが、爬虫類の冷たい光を宿して強く存在していた。
「山城」浦が声をかけると、山城は絡みつくような視線を浴びせてきた。その場の空気が凍りつき、ひりひりとした緊張感が漂う。