怒り、憤りの表現、描写を小説から学ぶ
坂東はすぐに返事せず、錐(きり)のような視線を社長室の壁に突き刺した。 池井戸潤さんのルーズベルト・ゲームより
弘前の目が値踏みするように岬を睨めつける。 咄嗟に警戒心を挟んで弘前との距離を取る。 ネメシスの使者 (文春文庫) 作者:中山 七里 文藝春秋 Amazon
四日間の奇蹟 吉岡秀隆 Amazon 気がつくと、もの凄い力で奥歯を噛み締めていた。自分の顎ではないみたいだった。
なかから岩塚が、咆哮をあげながら飛び出してきた。ドアの前に仁王立ちになる。目が血走り、唇が白く乾いている。興奮のためか身体が震えている。 柚月裕子さんのパレードの誤算
「さあねえってこと、ねえだろうが」 口に運びかけていたお湯割りの入った湯呑み茶碗を食卓に戻して、翔人は眉根に力を込め口を尖らせた。 「どうすんだよう、そんなの。どうすりゃ、いいんだよう」 乃南アサさんのしゃぼん玉
この答えに、十四歳の娘は明らかに不満そうだった。かすかにひそめられた眉が、そのことを物語っていた。 東野圭吾さんの希望の糸
涼しい顔をしてこんなことをいう日高の顔を、私は目を剥いて凝視しました。 東野圭吾さんの悪意より
「いくら法医学の権威でも、筋というものがあるでしょう。本来ならウチがするべき病理解剖を横からかっさらうなんて、いったいどういう了見ですか」 仲井は神経質そうに眉をひくひくと動かしていた。 中山七里さんのヒポクラテスの試練より
「いくら法医学の権威でも、筋というものがあるでしょう。本来ならウチがするべき病理解剖を横からかっさらうなんて、いったいどういう了見ですか」 仲井は神経質そうに眉をひくひくと動かしていた。 中山七里さんのヒポクラテスの試練より
怒りなのか、悔しさなのか、恥ずかしさなのか、自分でもよく分からないけれど、とにかく真っ黒でドロドロとした感情が肚(はら)のなかで渦巻いていることだけは分かった。 森沢明夫さんのおいしくて泣くときより
古手川に諭されると、久瑠美は憤懣やる方ないように唇を尖らせる。 中山七里さんのヒポクラテスの憂鬱より
供述調書を作成している最中も、古手川は腹が立って仕方なかった。親の無責任に対する義憤でもなければ美礼への同情でもない。もっと直截(ちょくせつ)な憤怒が額の辺りから弾け出そうな感覚だった。 中山七里さんのヒポクラテスの憂鬱より
中央署で七尾が説明を始めた時、本間はまだ鬼の形相だった。こめかみの血管は浮き、首から上が赤かった。だが話を聞くうちに、その表情はみるみる変わっていった。 東野圭吾さんの使命と魂のリミットより
浩介は父親を見下ろした。貞幸はこめかみに血管を浮き上がらせていた。 東野圭吾さんのナミヤ雑貨店の奇蹟より
「リョウ! 晴子さんに失礼だろ!」 怒鳴った父を、ぼくは目玉が血を噴くんじゃないかというほど睨んだ。そんなふうに睨まれると思っていなかったのか、父がたじろいだように声を飲む。 有川ひろさんのアンマーとぼくらより
どうしてあんなこと言うんだろ。祖母が晩ごはんを作りに来てくれたときにぼくが愚痴ると、祖母は鼻の頭にシワを寄せた。 「あんたのお父さんは根なし草だったからね。北海道が地元じゃないから土地に薄情なんだよ」 有川ひろさんのアンマーとぼくらより
怒りがじわじわ這い上がってくる。 横山秀夫さんの陰の季節より
二渡は波立つ心を抑え、瞬く間に地上に下り立つと、県警本部へ重い足を向けた。 横山秀夫さんの陰の季節より
「俺が原因ですか。俺のことが気に食わないから、嫌がらせをするわけですか」 御崎藤江は細い眉を鋭角に吊り上げた。「あなたのことなんか、関係ありません。規則だからいってるのよ」 東野圭吾さんの同級生より
鮎村は唇を噛むと、右手で拳を作り、机を一度叩いた。その拳は細かく震えていた。 東野圭吾さんのさまよう刃より
またしても細い眉毛を吊り上げて、ヤミーが言った。すかさずミリが仲裁に入った。 原田マハさんのアノニムより
麻由子は立ち尽くし、ハンドバッグの紐を強く握りしめた。瞳が潤み、そして揺れていた。 東野圭吾さんのパラレルワールド・ラブストーリーより
「彼女を……抱いたのか」聞き取りにくい声で智彦は尋ねてきた。 少しためらったが、俺は答えた。「ああ」 奥歯を噛みしめているのだろう、智彦の顎の肉がぴくぴくと動いた。 東野圭吾さんのパラレルワールド・ラブストーリーより
智彦が、何かに気づいたように目を見開いた。瞬きを繰り返し、右手の拳を胸の位置まで持ち上げた。その拳はぶるぶると震えていた。 東野圭吾さんのパラレルワールド・ラブストーリーより
追い詰められた猛獣のような鋭い目で瞬きをするのも惜しむかのように航一郎を睨みつけたまま、息を潜めていた。 さだまさしさんの風に立つライオンより
そしてもう僕の心は、この時には完全に氷点に達していた。 さだまさしさんのアントキノイノチより
ただの八つ当たりなのだが、僕に対する怒気が向こうを向いた松井の肩の辺りから噴出しているのがわかる。 さだまさしさんのアントキノイノチより
松井は百間長屋を過ぎると、ついに僕より少し遅れるようになった。 「しんがりをやるか?」 僕が訊くと、照れくさそうに笑いながら、 「ああ、いいけど」 と頷いてから言った。 「思ったよりきついぜ、この山」 僕は心の中で唾を吐いた。 さだまさしさんのア…
「大学はどうしているんだ?」 潤平の問いに、鈴江の目が泳ぐ。潤平のこめかみにたちまち青い筋が浮き出てきた。 名取佐和子さんのペンギン鉄道 なくしもの係より
満里子は、険しい表情を浮かべていた。息が荒く、傷んだ髪が紅潮した頬にかかっている。 柚木麻子さんのあまからカルテットより