怒り、憤りの表現、描写を小説から学ぶ
「何だと」マッカーシーの声が沸騰した。 堂場瞬一さんの血烙より
立花葵のうちに、ふつふつと怒りが滾(たぎ)り始めた。四十なかばを過ぎれば、めったなことでキレはしない。怒りといっても、せいぜいペリエの泡ぐらい上品なものだが、このときばかりは黒々とした泥状の怒りが、別府の坊主地獄のように滾(なぎ)ったのであっ…
その谷川の無策が、もう限界近くまで擦り切れてしまっている寺尾の神経を尖った爪で掻き回した。 横山秀夫さんのルパンの消息より
「なんだとう!」新里は金と銀だらけの歯を剥きだした。「しらをきる気か? 後で後悔することになるぞ!」 横山秀夫さんのルパンの消息より
彩子は唇を噛み、涙のたまった目で父を睨み付けた。反論出来ないことが何より口惜しかった。 柚木麻子さんの本屋さんのダイアナより
叱られても、園子はこたえたふうではない。口は閉じたが、ちょっと前に出した細い顎に、反抗の色が滲み出ていた。 東野圭吾さんの宿命より
水は差さなかったが、聞いてるうちに怒りの水位が上がっていく。 有川浩さんのシアター2より
「……そうですか」 ありがとうございます、といえばそれで一件落着だ。だが 腹の底で何か重たいものが寝返りを打つようにのたうった。 有川浩さんのシアター2より
清美は明らかに機嫌を損ねていた。への字に曲がった唇が、それを物語っていた。 「あと五分遅かったら、あたし、もう帰ってたよ」 東野圭吾さんの予知夢より
私は石のように固まった。頭のなかで、カツン、となにかが衝突する音がした。 原田マハさんのキネマの神様より
妻の顔は先ほどにも増して青白く、薄い唇は不機嫌に引き結ばれていた。 堂場瞬一さんの長き雨の烙印より
一瞬、脇坂の巨大な目が糸のように細くなった。長いつき合いで、本気で怒っていることがわかる。 堂場瞬一さんの長き雨の烙印より
瑶子は怒りの粒が体内にふつふつと湧き上がってくるのを感じた。 原田マハさんの暗幕のゲルニカより
朝の日課を何の前ぶれもなく中断させられた将軍は、言葉より先に両手で机を叩いた。 浅田次郎さんの日輪の遺産より
色のない唇をきつく結び、黒目の勝った大きな瞳を見開いて、少女は真柴を睨んでいる。頑ななほど、目を外らそうとはしない。 浅田次郎さんの日輪の遺産より
「それができないのなら、ここにいていただく必要などないのでは?」 「いい加減にしねか、辰彦。言葉が過ぎるぞ」 貞彦がたまりかねて言った。辰彦はいったん矛を収めはしたが、苦々しさを眉間に集めたままだった。 原田マハさんの奇跡の人より
一瞬、かっと頭に血が上った。口の中が渇き、目がかすんできた。ハンドルを握る手は、怒りで指先まで熱くなった。 原田マハさんの異邦人(いりびと)より
薄暗い怒りが身体の底からしんしんと湧き上がってきた。 原田マハさんの異邦人(いりびと)より
「ねえ、誰なの?」 ばあちゃんは、もう一度尋ねた。人生は、つぼみを振り返った。ほっぺたをハムスターのように膨らませて、すっかり不機嫌になっている。 原田マハさんの生きるぼくらより
「あのなあ、お前に何がわかるっていうんだよ」 怒りの炎がゆらりと立ちのぼる。なんなんだよ一体。 坂木司さんのワーキング・ホリデーより
こうなったら、発表しないわけにはいかない。嵌められた気がして釈然としないが、それはお互い様ということか。やらないわけにはいかない。 巻島は自分の感情にひとまずふたをして副調整室を出た。 雫井脩介さんの犯人に告ぐ
ナイフの切っ先のような鋭い感情を周囲にぶつけながら、この街を我が物顔で闊歩していたのだ。 薬丸岳さんの誓約
「口答えしないで!」 感情が一気に沸点を超え、薄笑いのように引きつっていた彼の頬に、私の手のひらが飛んだ。乾いた音がなった。 「何だよ、ちょっと、おい……」 雫井脩介さんのクローズド・ノート
怒った時の表現 「だったら、どうして別れないのよ」妙子は口を尖らせる。 「だから、それだけ花恵さんのことが好きだってことじゃないの」 妙子の眉尻が吊り上がった。「なんでよっ。あんな女のどこがいいの?」 「知らないよ。あたしに訊かないでよ」 東野…
治子は本気で怒っているようだ。怒気が顔に表れていた。きれいに沈んだ象牙色の肌が赤みをおびていた。 池永陽さんのコンビニ・ララバイ
自信がつくって、椿、それ以上自信をつけてどうするのよ。 小さく小さく、声を出していたかもしれない。全身を巡る濁った気持ちが、血管からどろどろと滲み出てくる。どんどん部屋が広くなっているように感じる。テーブルが小刻みに揺れて私は我に返った。 …
衝撃を受けたの表現 熱の塊のような重たい空気が喉にこみ上げ、目の後ろに、瞼を開けていても白く閃光のような光を感じた。ああ、と食いしばった歯の間から吐息が洩れる。 辻村深月さんのゼロ、ハチ、ゼロ、ナナより
怒りが膨らんでいく表現 話しているうちに、溶岩のような怒りが込み上げ、私の体を突き抜いた。今まで、こんなにも巨大な感情を、心のどこに閉じ込めて生きてきたのだろう。怒りがぐんぐんと膨張した。 小川糸さんのつるかめ助産院より
「須永先生まで気にしてくださっていたんですねえ、いやあ、なんか申し訳ないなあ」 「申し訳ないとかじゃなくて」 めがねの奥にある須永の一重瞼が、す、と鋭くなる。 朝井リョウさんの世にも奇妙な君物語より
怒り出てくるの表現 光治は床に落ちて、しょうゆで汚れた紙を拾いあげた。もう一度、文面を読み返す。不起訴、という字に胸が激しく波打つ。 何故だ! 心で叫ぶ。 柚木裕子さんの最後の証人より