工兵隊長の唇はわなわなと震えていた。ようやくそれだけを言うと、隊長は総司令官の前であることも忘れたように、水筒の水を音をたてて飲んだ。 浅田次郎さんの日輪の遺産より

荒れ果てた工場が建ち、どんよりと風の動かぬ、モノクロフィルムのような風景の中に、巨大な煙突が何本も魔物のように佇んでいた。 浅田次郎さんの日輪の遺産より

朝の日課を何の前ぶれもなく中断させられた将軍は、言葉より先に両手で机を叩いた。 浅田次郎さんの日輪の遺産より

海老沢はこの数ヵ月の間ずっと考え続けてきた暗い物語が、春の光と風の中で揮発してしまうような気分になった。 浅田次郎さんの日輪の遺産より

丹羽は大声で笑い出したとたん、笑いきれずに切ない溜息をついた。 浅田次郎さんの日輪の遺産より

川面を渡ってくる北風に身をすくめながら、真柴はまっすぐに病院を目ざした。 浅田次郎さんの日輪の遺産より

「貴様のように首席で卒業して、一選抜で陸大に合格すれば、まさかこんなことにならなかったろうってな。考えてみれば、勉強しなけりゃ殺すぞ、というのと同じだ」 男は痩せた歯茎を剥き出して笑った。 浅田次郎さんの日輪の遺産より

真柴司郎にとっての戦後は、時計の秒針を見つめるような、長い、耐え難い年月であった。 浅田次郎さんの日輪の遺産より

焼け残った議事堂の上に、巨大な夕日がただれ落ちようとしていた。 浅田次郎さんの日輪の遺産より

小泉は厚いメガネの底で目をつむり、体じゅうの空気を吐きつくすほどの溜息をついた。 浅田次郎さんの日輪の遺産より

日輪の遺産 (角川書店単行本) 作者:浅田 次郎 KADOKAWA Amazon 日輪の遺産 特別版 [DVD] 堺雅人 Amazon おすすめ度 4.0 感動する ☆☆☆☆ 笑える スリル ☆☆ ほっこり ☆ ビックリ ☆☆☆ 先が気になる ☆☆☆☆ ためになる ☆☆☆☆ 心に残る ☆☆☆☆☆ 切ない ☆☆☆☆☆ 怖い ☆☆☆ …