初老の店員は、ブルースを歌わせたら魅力的だと思わせるような錆びた声で尋ねた。
甲高い声が脳天に刺さる。
彼女の白い喉がぐっと動いて、変なトーンの声を絞り出した。
喉の詰まりを吹き飛ばすように無理やり咳払いした。
「ええ? マジかよ」村上が脳天から抜けるような声を上げた。
真奈の喉はやっぱり凍りついたように一言も声を出せなかった。
「知らないわよ!」あおいの言葉が礫(つぶて)になってわたしにぶつかった。
「具合は」
「頭を……」空気の中に溶けてしまいそうな儚い声だった。「頭を何度も金づちで殴られて、頭の骨がいっぱい割れちゃったんだって。脳のほうにも怪我して、それで……」
口調に非難は感じられない。風に負けない最低限の声を出し、思っていることをそのまま口にしている。
「泣かない」
真希の呟きが、風の隙間から能見の耳に届いた。能見は一瞬既視感を覚えた。ずっと昔、似たような言葉を真希の口から聞かされた。
喉の途中にしこりができたように、声が出ない。
「知ってるよ」雨の音に消えそうな声で大友が認めた。
「どうして」低い厳しい声で、冴が追及する。
「はい」特徴のない男の声であった。低からず高からず、機械で合成したようにも聞こえる。
「私がどうしたっていうの?」冴が、全てを拒絶するような硬い声で言った。