2022-07-01から1日間の記事一覧
見上げる先で、透明のビニール傘の表面を雨粒がつるつると滑り落ちていく。綺麗だなあ。そんなふうに感じたのは久しぶりだった。ゆっくり呼吸すると、土と埃、懐かしい雨の匂いがした。 凪良ゆうさんの流浪の月より
男の人は全体的にさらさらしていた。それに近くで見てわかった。この人、すごく綺麗な顔をしている。奧二重の切れ長の目で唇が薄い。なにより鼻が完璧だった。美形の条件は鼻だと、お母さんが常々言っていた。 凪良ゆうさんの流浪の月より
「帰らないの」 甘くてひんやりしている。半透明の氷砂糖みたいな声だった。 凪良ゆうさんの流浪の月より
ぽつんとつむじを叩かれた。鉛色に塞がれた空から透明の滴が降ってくる。全身がしっとり湿っていく。傘はない。早く帰らなくちゃ。 凪良ゆうさんの流浪の月より