東野圭吾さんの夢幻花の表現、描写
早瀬は椅子の背もたれに身体を預けた。目の奥が鈍く痛み、首筋は強張っている。両腕を大きく上に伸ばすと、つい唸り声が漏れてしまった。
誰もいないと思ったが、ガラスケースの向こうに顔がひょいと現れた。白い頭巾を被ったおばさんだった。いらっしゃい、といって笑顔を作ると、顔中の皺が深くなった。
『伊庭医院』は、そんな住宅街の中にあった。灰色の四角い建物で、外から見たかぎりでは三階建てだった。道路に面した壁に「田」の字に見える窓が並んでいる。入り口のドアは木製で、真鍮製と思われるドアノブが付いていた。どう控えめにみても、五十年は経っていそうな建物だ。掲げられている『内科』という看板も変色しており、かなりの年代を感じさせる。
再び診察室のドアが開いて、白衣を着た男性が出てきた。白髪交じりのせいで灰色に見える長髪を、頭の後ろでしばっている。口の周りに生やした髭も同じ色をしていた。
家の前まで帰ってくると、一人の若い女性が門の前に立っていた。髪はショートで背が高く、均整の取れた体型だ。Tシャツの上から白いブラウスをふわりと羽織っている。ぴったりとしたジーンズを穿いた脚は、すらりと長かった。
早瀬は瞼のたるんだ目を彼女に向けたままだった。自分の年齢の半分にも届かない小娘との駆け引きになど関心のない表情だった。
俺の話を聞き、秋山梨乃は黒目をくるくると動かした。
家の前まで帰ってくると、一人の若い女性が門の前に立っていた。髪はショートで背が高く、均整の取れた体型だ。Tシャツの上から白いブラウスをふわりと羽織っている。ぴったりとしたジーンズを穿いた脚は、すらりと長かった。
日野は皺に囲まれた目を細め、薄い笑みを浮かべた。
年齢は四十代後半といったところか。小柄だが頭が大きく、額が広い。そのせいか金縁眼鏡がやけに小さく見える。
「なんだ、寝てんの? 風邪ひいちゃうよ」
そういいながら近づいたが、その足が止まった。異臭に気づいたからだ。
おそるおそる近寄っていった。周治の顔が見えた。その瞬間、何かの塊が喉の奥から出そうになった。
「そういってもらえるのはありがたいけど、意味ないよな。もうあいつはいないんだし」澄んだ高い声が魅力の雅哉だが、そう呟いた言葉は、聞く者の心の底に沈んでいくように重たかった。
そして彼女の美しさを改めて確認した。大きな目には、心が引き込まれるような光が宿っていた。きめ細かな肌、完璧に左右対称な輪郭は、陶器の白い花瓶を想起させた。