園田乃梨子49歳 書き出し
体重が、また増えた。
この私が、五十九・八キロもあるなんて信じられない。
園田乃梨子は、足もとの体重計を呆然と見下ろした。
こんなに頑張っているのに、なぜ痩せない?
これ以上、どうやってダイエットしろっていうの。
乃梨子は体重計から下りると、浴室の鏡に映った裸を見つめた。
キュッとくびれていたはずの自慢のウエストは、今ではどこにも見当たらない。
なんなのよ、この二重アゴ。
どうしちゃったのよ、この首のたるみは。
二の腕ときたら、まるでプロレスラーじゃないの。
ああ、なんてみっともない。
乃梨子は沈んだ気持ちでシャワーの栓を捻った。
錦小路小菊18歳 書き出し
お母さまは私を軽蔑しておられる。
私に腹を立てていらっしゃる。
だってこの頃、私を歌舞伎にお誘いにならなくなった。由緒正しい錦小路家に、私のような太った娘がいることを世間に知られたくないからに決まっている。
錦小路小菊は鬱々とした気分で、自宅の玄関ドアを開けた。
上がり框に腰かけてブーツを脱ごうとするも、そう簡単には脱げない。ふくらはぎが丸太のように太いので、ファスナーを下ろすのもひと苦労だ。
やっと脱ぎ終えて短い廊下を進み、リビングのドアを開けようとしたとき、中から父の声が聞こえてきた。
「あれは小菊じゃなくて大菊だね」
一瞬の間を置いて、弾けるような笑い声が響き渡った。
「やだわ、大菊だなんて。もう、あなたったら」