「そうか……俺が自分から辞めるといい出せばいいわけだ。適当な理由をつけてバンドを抜けるといえば、寺尾は怪しまない」
「すまん、そういうことなんだ」
コータの言葉に、他の二人もさらに深く頭を下げた。
「根津さんも、それが一番いいだろうっていってた」
すべてはあの男の指示らしい。直貴は虚脱感が全身を満たしていくのを感じていた。これが大人のやり方というものだろう。大人とは不思議な生き物だ。ある時は差別なんかいけないといい、ある時は巧妙に差別を推奨する。その自己矛盾をどのようにして消化していくのか。そんな大人に自分もなっていくのだろうかと直貴は思った。
「再生紙ってあるだろ。あれは古新聞から作るんだ。今じゃ、少々変な紙が混じってても平気らしいけど、前はチラシなんかでもまずかったらしい。だけど、新聞を捨てる時、チラシまで分ける人間は少ないだろ。再生紙工場には、いろいろな紙が混じった古新聞の山がいくつもあるわけよ。そりゃあどでかい山だぜ。ちょっとした建物ぐらいある。それをさ、どうやって分けると思う」
わからなかったので、直貴は首を振った。
「おばちゃんが分けるんだよ」立野は欠けた前歯を見せて笑った。「機械とか使わないぜ。パートのおばちゃんが新聞の束を解いて、チラシなら雑誌やらを取り除いていくんだ。砂漠の砂を数えるようなもんだ。みんなが便所で気分よくケツを拭いてるトイレットペーパーは、そういう作業があってこそ作られるんだよ」