小説を読んでいると、
『これはためになる。頭に叩きこんでおこう』
と思う言葉がたくさん出てきます。
頭に叩きこんだつもりでも忘れてしまうので、それを残しておいて、あとで読みかえせるようにしています。
読みかえすと、その小説を読んで感じたことを思い出せます。
「きれいなだけの人間なんかいやしねぇよ。どっちもあるんだ。お前の中にもあいつの中にも。俺の中にもな」
「グッド・アイデアというのは、最初に聞いた時には大抵笑い話ですよ。誰も考えつかないし、考えても実現不能で済ませちゃいますから」
「こうした形でお嬢さんを看病しておられることについて、あれこれいわれることもあると思います。でも一番大事なのは、ご自分の気持ちに正直であることです。人の生き方は論理的でなくてもいいと思うのです。そのことをお伝えしたくて、あのような話をさせていただきました」
パリは、何とか怒りを抑えようと必死になった。怒りは、仕事をスムーズに進める上で、常に邪魔になる。祈りを唱える。
「最初から黙って渡していれば、こんなことにはならなかったのに」
「終わってしまったことを悔やんでも仕方がない」バリは即座に言った。反省はするが後悔はしないのが、ラガーンのエージェントの掟だ。
顧客からのクレームだとか、納期のトラブルだとか、社内の軋轢だとか、悩むのも馬鹿らしくなる。自分の生存がかかっていると、日常の悩みなど悩みでなくなるのだと直美は痛感した。
結果が出るのは、得てして何も考えてない時である。あれこれ思い悩み、そういう雑念を吹き飛ばそうとふだんにも増して練習量を増やしている時に限って、自分の思い通りに事が進まない。
こういうマイナス思考はやめよう。レイは言っていた。「自分がヒットを打った場面だけ覚えてればいいんだから」と。野球に関してはまったく素人のレイだが、その言い分は沢崎も認めざるを得ない。ヒットを打ったのは、自分の技術を上手く出せたからである。失敗のイメージを引きずって反省ばかりしていると、上手く打てた時の記憶もなくしてしまうものだ。
交渉において絶対やってはいけないことは「知ったかぶり」である。たとえこちらの立場がマイナスからのスタートになってもだ。適当に話を合わせていたりすると、矛盾点を突かれて必ず傷口が広がる。
「こういうことが、そのうち仕事に生きてくるかもしれないでしょう」
「そうかなあ」
「そう」やけに力強く坂巻がうなずく。「世の中に、無駄なことなんて一つもないんだから」
まあ、いい。いつも上向き、永遠に仕事が拡張し続けていくなどということはありえないのだから。いい時もあれば悪い時もある。それが納得できずに身悶えしてしまう人間は、自分の足元を見失うことになる。
「障害を持った明朗な人と、五体満足ではあるけれども心の塞いだ人がいる。どちらの人生が豊かなのかという問題がある。どちらですか? あなたの人生はどうですか? 人生が豊かかどうか判断するのは自分の内面です。内面の独立とはそれほど重要なことなんです」
「顔の魅力を決めるのは、表情なんですね。俳優の顔に魅力があるのは、表情が豊かだからです。表情を柔らかくするのは、痣を消すよりずっと簡単で、ずっと重要なんですよ。それに心の浄化を怠らない。加えて、痣など気にしないということになるわけです。さっき思い込みの話をしましたけど、カバーマークをして痣を消しますね。そうしたとき、本当に消えたと思うんです。あ、消えちゃったと。実際は隠れているだけとかは思わなくていい。そういう暗示がね、大事なんです」
「お前みたいに特技があるやつが羨ましいよ」
「何をおっしゃいます。こういうプラスマイナスで人間社会は成り立ってるんですから」