国道に面した店は、トラックの激しい往来のせいで、排気ガスや粉塵にまみれて、うっすらと粉をふいたようになっている。まるでセピア色の映画を見ているようだった。
威風堂々とした中世ヨーロッパの牢獄のような建物がそびえ立っていた。
前方に立ち塞がる建物を見上げた。外壁は青々と蔦がからまっていて、その隙間からオレンジ色の温かな灯りが漏れている。
マンションというより大きなアパートと言った方がぴったりくる四階建てで壁のあちこちが黒ずみ、駐車場のアスファルトはひび割れて所々盛り上がっていた。
やがて最高裁の建物が右手に見えてきた。桜並木に囲まれた建物はまるで積木を互い違いに重ね合わせたようなモザイク型だ。御子柴にはその歪(いびつ)な形が、現状の法律のあり方を表しているようで皮肉にしか映らない。
東條製作所 ー 羽虫群がる常夜灯に浮かび上がったブリキ看板は所々赤錆が浮き、四隅みが剥がれている。敷地に入ってもいないのに、もうオガクズの臭いが漂ってくる。
基地の近くという立地条件から一般住宅よりは工場が多いのだろうが、時折見かける球切れの街灯が町の印象をうら寂しくさせている。
瀟洒(しょうしゃ)と言っても良いほどの管理棟に比べ面会者を迎える門扉は赤錆だらけの朽ちた鉄製で、この仕様の落差が施設を運営する者の本音をさらけ出している。
中央線のない細い道、両側を囲む木々、道の際を侵食しようとたくらむ名の知れない雑草たち。低く垂れ込めた雲、冬枯れが進行する草木の色。
大きなスクランブル交差点だった。人が四方から一斉に流れ始めた。
アスファルトを敷いた小径(こみち)を歩いていった。すれ違う人はいない。人造の小さな林を抜けると、突然四海が開けた。広大な芝生広場。
陽が沈もうとしていた。
多摩川を挟んだ対岸には川崎の工場地帯。朱色の空が浮き立たせる地平線は、四角や三角の屋根、煙突の林に切り刻まれている。逆に目を転ずれば、平らな地平の広がり。
灰色の煙突から流れ出る淡い煙が、晴朗な空に霧散していく。
錦繍に包まれた小径を、能見亮司は進んでいった。
まるでフランスかイタリアの片田舎にある店かと思うような、荘厳な石造りの外観が現れた。
円形の歩道橋がぐるりと覆い被さっている駅前の交差点を左折して、ニュータウン通りを西に向かった。
井澤の家は、腰の高さまでの低いブロック塀と、その上に植栽されたゴールドくレストの生垣で囲まれていて敷地の中が覗けない上、路地の行き止まりにあるので、張りこみには不向きだ。
今日も雨だ。サンデッキから見下ろす街は、薄い灰色に煙っている。霞の向こうに辛うじて駅舎が見えるだけで、風景からは色が消えていた。
ニュータウンからは車で二十分ほどの距離なのに、この辺りはずいぶんと様子が違うな、と思った。何と言うか、街の様子が自然なのだ。道路脇には、コンビニエンスストアやガソリンスタンド、ファミリーレストランや車の販売店が立ち並び、その隙間を埋めるように、ラブホテルやアウトレットショップの看板が立ち並んでいる。
箱を伏せたような公団住宅に背を向けて歩き出しながら、私は手帳に番号を書きこんだ。一の五〇六。
公団住宅が立ち並ぶ一角にあった。比較的古い公園のようで、トイレや水飲み場は薄(うっす)らと汚れており、秋の雨に濡れる木々も、どことなく力がない。
地下鉄森下駅から新大橋に向かって歩き、橋の手前にある細い道を折れた。民家が立ち並び、そのところどころに小さな商店が見える。それらの店の殆どに、昔からずっと商売を続けている雰囲気が漂っていた。ほかの町ならばスーパーや大型店に淘汰されてしまいそうだが、たくましく生き残っていけるところが下町のよさなのかもしれない
給水タンクや各種設備の室外機置き場でしかない、鳥のフンが床一面こびりついた屋上に。どこかに野鳥が巣を作っているのか丸裸の雛がミイラよろしく干し上がっていることもあるし、カラスが持ち込んだらしい残飯やガラクタが転がっていることもある。間違っても好きこのんで出入りしたい場所ではない。
駅が汚い。雪のせいだろう、元々薄い上品な茶色だったらしい駅舎は、あちこちに太く黒い汚れの筋が走り、廃棄直前の食肉加工場といった趣である。メインストリートは駅の西側にある温泉通りで、小さな温泉旅館、民宿、冬場だけで一年分の生活費を稼いでしまう飲食店や土産物屋が、狭い道路の両側に重なり合うように建っていた。大きなホテルや旅館、それにバブルの時期に集中的に建てられたリゾートマンションは、高台の上から温泉通りを見下ろしている。
ホテルのすぐ横にある巨大な劇場は、空に定規を当ててすっと線を引いたような造りだった。
コペンハーゲンの警察は、巨大な冷蔵庫のような真四角の建物だった。正面から見ると、灰色のコンクリートの塊。ほぼ一ブロックを占めており、どこか近寄りがたい雰囲気を醸し出している。
でかい家だ。鉄扉の向こうにも道路が続き、家自体は鬱蒼とした木立の中に隠れている。
アパートはラブホテルが軒を連ねる通りに、見向きもされない落とし物のようにひっそりと建っていた。壁は汚れ、外階段の手摺は赤く錆びている。軒下には洗濯機が三台並んでいて、その中の一台は稼働中だった。
到着して見上げると、雨粒を浴びながら、大きなコンクリートの塊が夜空に向かってそびえ立っていた。電気がついている部屋は半分ほどだ。
街並みは住宅地の色が濃いが、巨大なコンクリート高架がどこか風景を大味に見せている。
二階建ての建物は、一階部分の半分がシャッターで、小さい玄関ドアはえんじ色のペンキで塗られており、小窓から明かりが漏れて、笑い声が聞こえる。
「しばらくそこに泊まってますから。俺に用事があったら、ここへ来れば会えるよ」
彼の指先を延長すると、そこには夜空に向かって鉛筆のように細く立ち上がる建物があった。
行き交う車のヘッドライトが細い線を作り、新宿の夜景に縞模様を作った。
街のネオンが目を焼く。錦糸町は、上野から東の都内では最大の繁華街といっていい。消費者金融の巨大な看板、パチンコのネオン看板、雑居ビルにパズルのようにはめこまれた飲食店。