もとは和室だったのを洋風に改築したのだろう。書院造りの床の間はそのままだが、床はフローリングにしてあり、中央部分だけ薄緑色の絨毯が敷かれている。壁にはフラゴナールの「読書する少女」の絵画が飾られていた。本物のサイドボードの中には、長年に亘る暮らしの中で溜め込まれたと思われる、ありとあらゆるものが所狭しと無造作に置かれている。
薄いカーテンが閉まっており、淡く陽の光が入ってくるだけで、部屋は寒々としていた。
松宮は室内を見回した。六畳ほどの和室だ。必要最小限の調度品が、壁際に寄せられている。日当たりはよくないせいで薄暗く、空気の入れ換えをあまりしていないのか、畳は湿っぽかった。
ベージュの壁紙がすっかり色褪せた、間取りでいえば1Kの部屋だ。畳は日に焼け、赤茶けている。卓袱台が部屋の中央にあり、壁際には小さな戸棚とカラーボックスが並んでいた。
いきなり眼前に大ホールが広がる。慣れない者ならその天井の高さと厳粛さに萎縮してしまうだろうが、恐らく設計者は見る者への心理的効果も考慮したに違いない。
自動ドアをくぐると、広い円形のホール。丸天井には三角の天窓。そこから幾筋もの光が差し込み、床にまだらを作っている。
左手にガラス戸で仕切られた焼き場があり、右手には待合室。待合室の中は人が溢れていた。
古民家を模したうどん屋で、大きな土間の中ほどに、巨大な囲炉裏が切ってある。
「ま、その辺に適当に座って下さい」服部が指差す「その辺」には雑誌や新聞が散乱しており、畳が見えなくなっていた。部屋の中央に置いてあるコタツの上には、缶ビールが三本。小さな灰皿には吸殻が溢れ、天板に灰が零れていた。広げた週刊誌のグラビアには、ビールでも零したのか、大きな染みがついている。
狭いアパートだった。玄関を入るとすぐに小さな台所で、その奥に六畳の部屋が二つ。狭い家を少しでも広く使おうとしているのだろう。二つの部屋の間のふすまは開けっ放しになっていた。奥の部屋の片隅に、布団が丸めてある。
忙しい時間帯は避けたい。もっとも、こんなところにある店がどの程度に混むかわからないが、と錆の浮き出たエレベーターの壁を見ながら彼は思った。
上条伸行の書斎は、南側に窓のある明るい洋室だった。広さは八畳程度で、壁際には書棚やサイドボードがあり、窓を背にして座るように机と椅子が配置されていた。