だけど意外や意外。お母さんの気持ちがちょっとわかった。人間は自由な時間がないと、気が変になりそうになる。
「死に物狂いで勉強した方がいいよ。だってその方が将来のためだもん」
あれ? 将来? あたしったらまるで胡散臭い大人じゃん。
何かっつうと、将来将来って言う大人って、もしかしてあたしと同じ、後悔の塊だったわけ?
「世の中、不公平すぎるよ。仕事の中身は同じなのに、正社員はパートの何倍もの給料もらってんだろ?」
「それを言わないでよ。働くのが嫌になっちゃうから」
「どうして誰も正そうとしないんだよ」
「正す? どうやって? 無理に決まってるじゃない。そんなの仕方ないことよ」
この世の中、いったいどうなってるんだ?
昔から、大人は何でもかんでも仕方ないという。自分も大人になったら、自然にそういう考え方になるんだろうと思ってたけど、実際は全然違った。
この世の中は、<仕方がない>ことで溢れ返ってる!
お父さんが交通事故で死んじゃったことは、確かに<仕方がない>ことかもしれない。でも、そのあとお母さんが一生懸命働いても貧乏から抜け出せなかったことも<仕方がない>ことなんだろうか?
「小松原さん、見直しちゃったわ。胸がすかっとした」
印象には残っていなかったけど、PTAに出ていたママさんのひとりのようだ。
ちょっと救われた思いがした。
「あたし、ちょっと出しゃばりすぎたかな」
「そんなことないわよ。もしも学芸会に参加しなくて済むんなら、みんな助かるもの」
やっぱりあたしの意見は正しかったんだ。
「だったら、どうしてあの場で賛成してくれなかったの?」
「だって、私は小松原さんみたいに勇気のある人間じゃないもの」
ママさんの言葉で、一瞬にして頭に血が上った。
小学校の頃からつい最近まで、自称《勇気のないに人間》やら《気の弱い女》などに、どれくらい傷つけられてきたことか。
「ざけんなよ。勇気がないんじゃなくて、あんたはただ単に卑怯者なんだよ」
「そんな……」