熱いコーヒーが冷えた五体のすみずみに滲みわたる。
濃紺の器は小ぶりだが、それ故「ぎっしり入っている」感じが強い。照りの強い叉焼が四枚、それに加えていかにも辛そうなひき肉が乗っている。メンマは最近よく見かける、長くて柔らかいタイプのようだ。青々としたネギが真ん中に集まり、色合いのいいアクセントになっている。スープは、「味噌」という言葉からイメージされるものより、ずいぶん白っぽい。
遼一は申し訳程度にシャツでこすってからリンゴにかぶりついた。果汁が渇いた喉に凍みる。痛いほどだ。
食欲はない。だが、食べられる時に食べておくべきだと思い直し、聡子がテーブルに置いた紙袋を開けた。焼きたてのパンの香りがふわりと広がり、食欲を刺激する。チーズの入ったどっしりと重いドイツパンを取り出し、二つに割ってかぶりついた。
冷えた生ビールを飲みながら、熱々のから揚げにレモンをしぼる。
おいしい。
自由の味がした。
ランチメニューの項目をタップすると、赤身サイコロステーキ、舌平目のムニエル、ほうれん草とベーコンのキッシュから一点を選べるらしい。どれも美味しそうだ。前菜には美しい彩りのサラダがついていて、パルメザンチーズがこれでもかというくらいかかっている。
オーブントースターがチンと鳴り、夫が「アチッ」と言いながらパンを取り出した。焦げたチーズの香ばしい匂いが台所に立ち込める。
「お肉も焼けたわ」
粒胡椒をこれでもかというほど載せると、安い肉でも熱いうちならなかなかイケる。
私は自分で茶碗に飯を盛り、アジの南蛮漬けに箸を伸ばした。酢がきつくなく、唐辛子の辛味がうまい具合に効いている。
夕食の準備中だったのか、家の中から、醤油と出汁の匂いが濃く漂い出て来た。
ラーメンのスープは、東京風というにはどす黒過ぎるが、むしろ濃い醤油味が嬉しい。チャーハンは強い炎を使ってぱらりとしたものではないが、味自体はしっかりしていて、特に卵の甘みが感じられるのが好みだった。半ラーメンをスープ代わりにあっという間にチャーハンを食べ終え、一息つく。
喉に絡みつくほど甘いヘーゼルナッツのシロップは、スターバックス
程よい甘さと共に、かすかなレモンの香りが口の中に広がった。
冷たい麦茶を味わう。喉仏がしびれた。
柔らかい上質な肉だということが分かる。ナイフにほとんど力を入れなくてもずっと切れた。口に入れるとわずかに歯に抵抗した後に、あっさりと溶けて喉に滑り落ちる。