井戸が器を日岡に差し出す。なかに溶き卵が入っている。器のなかの霜降り肉は、まだ赤みがかかっていた。卵を絡めて口に入れる。途端、舌の上でほろりと溶けた。脂っぽさは微塵もなく、肉の旨みがたちまち口腔に広がる。 柚月裕子さんの凶犬の眼より
もうひとつの席に女が座っていた。見たところ五十代半ばか。歳に似合わない真っ赤な口紅をつけ、贅肉をため込んだ身体を、サイズの合わない事務服で包んでいる。 柚月裕子さんの凶犬の眼より
穂先が剣のように尖った稲が、天に向かって真っすぐに伸びている。 青く晴れ渡った空からは、夏の強い日差しが降り注いでいた。 柚月裕子さんの凶犬の眼より
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