「君がもしも、いつの日か陶芸家になりたいと夢を抱いているのだったら……むしろ、私が創ったようには創ってはいけない。なぜなら、芸術家は独自性を持っていなければならないから。先人に憧れるのはいいことだけれど、その芸術家の真似をして許されるのは、最初のうちだけだ。芸術家になるためには、先人を越えていかなければならないんだよ」
シンシア。人に何かを頼むときに頭を下げるのは、日本人の習慣だよ。知っていたかい? ……とても美しい日本人の習慣だ。
「亀ちゃん。わかるよ。君はいま、自分を責めているんだろう。寝ずの番をすればよかったって。……しかし、それは違う。火事になったのは、君のせいじゃない。なぜなら、君がそうしようと思ってこうなったわけじゃないんだから」
「画家で詩人のウィリアム・ブレイクというイギリス人がいる。彼が、とても興味深いことを言っているよ。それはね、こういう言葉だ。『欲望が、創造を生む』。わかるかい?」
リーチの言葉、いや、初めてその名を聞いたブレイクという芸術家の言葉が、亀乃介の心に触れた。両手で包み込むようにして。
欲望が、創造を生む。
リーチは続けて言った。
「この世界じゅうの美しい風景を描いてみたい、愛する人の姿を絵に残したい、新しい表現をみつけたい、そんなふうに、『やってみたい』と欲する心こそが、私たちを創造に向かわせるんだ。芸術家が何かを創り出す原動力は、『欲望』なんだよ」
「そういうところが、君のよくないところだ」
君たち日本人は、何につけても相手を思いやり、相手を立てようとする。それは日本人の美徳であるのだと、自分はいつも感激する。
けれど、一方で、自分のことを卑下し、なんでも遠慮して、こちらの好意を受け取ろうとしない。そうすることが美徳であると、子供の頃からしつけられているかもしれない。でも、それは大きな間違いだ。
もし君が、本気で芸術家になろうと考えているのだったら、まず、自分を卑下することをやめなさい。芸術家とは、誇り高き存在だ。お金も家も、なんにもなくても、誇りだけはある。それが芸術家というものだ。
「しかし、もし本気で新しいものを始めよう、新しい何かを創り出そうと思ったら、いままであったこと、誰かがやってきたことを、全部、越えるくらいの気持ちが必要だと、私は思います」