自分の能力をすぐれたものとして、他に誇ること。尊大、荘重な態度をとること。自負。誇り。プライド。
ふと笑い出したくなった。先刻まで裁判官の矜持なるものを偉そうに開陳していた自分が、救いようのない馬鹿者に思える。
責任を持って個展を開催してからイギリスを去る、との決意に、亀乃介は濱田の芸術家としての矜持を見た気がした。
彼は再び、ほとんど自分の矜持に懸けてといった、一切の曖昧さを残さぬ態度で、こう断言した。
「はい。違います。この人は知りません!」
「その事件の捜査をしているのは蒼井さんだけではないでしょう。他にもたくさんいらっしゃるはずだ」
「そうですね……自分の勝手な矜持、というしかありません」
一年生記者としての松本の態度はやはり問題だった。自身の価値観や感性に矜持を持つのは悪いことではないが、記者に最も要求される資質は柔軟性だ。
泣いてすがれば、父の決心は揺らぐかも知れないと思った。だが少年にも矜持はあった。
銀座の一等地に店を開き続けることは、老舗画廊としての最後のこだわりであり、矜持でもあったが、そうとばかりも言っていられないような雰囲気が漂い始めていた。
京介は立ち上がって畏まる。相手が醸し出す自信と風格に圧倒された。長年政財界から芸能界、スポーツ界などの大物と接してきたという矜持がみなぎっているようだ。
要領の良さで出世してきたタイプで、法律家としての矜持よりも、上司の思惑に従うことが行動律の第一位らしい。
「マスコミの人間」と十把一絡げで捉えてしまったが、実際には、彼は一人一人、モラルも矜持も異なるに違いなく、自分たちの仕事への煩悶も人それぞれなのだ。いい人もいれば、感じの悪い人もいる、そういうことだろう。
「苦労をかけるかもしれないが、このままでは、私の矜持が許さない」
無念の思いが、こみ上げた。
わざと殴られて公妨の事実を作るー 公安がよくやる手口である。それを考えると、大友はかすかな吐き気を覚えた。刑事部には刑事部の矜持があってもいいのではないか。こんな、引っかけのようなことをしなくても……。
「実際そうだからですよ。モノホンの幹部にでもなれば、そりゃあさすがに相応の覚悟なり矜持が身につきますが、それ以外はやっぱりヤクザなんて半端者の集団なんですよ」
この数ヵ月間、どこかに置き忘れていた刑事としての矜持が埃を振り払って姿を現し、強くあれ、と私に命じる。
「ミズ・アイラ・リンとの友情のために?」
「それもあるでしょう。もちろん、研究者としての矜持もあると思います」