オフィスの窓から見える高い空の遠くに、黒いカーテンのような雨雲が垂れ下がったかと思うと、ざっと雨が降り出し、みるみる、辺りが暗くなった。
二人の子供の名を呼んだが、子供たちも激しい雨脚の中で、もはや振り返らなかった。飛沫で白く煙る中を、妻と子の姿が、次第に遠ざかって行く。
パトカーと消防車、救急車の赤色灯が、雨でモノクロになった夜景を血の色に染め上げる。
車のフロントガラスに雨滴がぶつかっては潰れ、ワイパーを動かす速度を上げるとガラスが甲高い音を立てて鳴き始める。中途半端だ。もっと激しく降るか、きっちり止んでくれればいいのに。
そろそろ日付の変わる時刻になろうとしているし、篠突く雨を嫌って外出している者も少ない。
建物の外は相変わらすの土砂降りだった。夜目でも空から降り注ぐ銀色の槍が見える。
鉄のような、砂のような独特の匂い。壁に背をつけて座っていた充は、背後の掃き出し窓を覗き見た。
今日も雨だ。サンデッキから見下ろす街は、薄い灰色に煙っている。霞の向こうに辛うじて駅舎が見えるだけで、風景からは色が消えていた。
強くなってきた雨が、カメラのフラッシュの中で細い糸のように浮かび上がる。
霧のような雨が靴を濡らしたが、今夜ばかりは気にもならなかった。
霧のような雨が、私たちにまとわりついた。
街灯に白く照らし出された雨が、無数の針のように、川面に、私に突き刺さる。