「いいかい? 口惜しくて死にたいなんてことは生きていればしょっちゅうあることだ。だけどそのたんびに死ぬわけにはいかないんだ。大切なのは、死ぬほど口惜しいって思いをね、どんな風にして自分の生きるエネルギーに変えるかってことだよ」
「一生懸命に生きた人は、一生懸命に死ぬことができる」
そう言いかけて言葉を止め、少し難しいかな? と尋ねた。
「人は生きたようにしか死ねない」
そう言ってまた言葉を切り、
「いずれ必ず死んじゃうってことは違わないけどね。……あのね杏平、生命の重さに差はないけど、生きる重さには差があるんだよ」
父は暫く何か考えていたが、思いがけないことを言った。
「お前……魔法にかけられちゃったんだな」
「魔法?」
僕は怪訝な顔をすると、父は真面目な顔でこう続けた。
「うん。グリム童話に出てくるような、きっと……悪い魔法使いに、蛙にされちゃった王子様なんだな」
「蛙?」
「ああ、そうだ」
父は僕の顔をじっと見つめながら言葉を探していたが、
「でも、信じろ」
と柔らかな笑顔になった。
「魔法は……いつか必ずとける。……人間に戻れるから」
そうして僕の肩を軽く叩いた後、
「必ず戻してやるからな」
と言って、またふらり、と部屋を出て行った。
「ありがとう、いう言葉にほだされたんですわ。仕事終わって、人様にありがとうって言われる仕事。これ、嬉しい仕事ちゃうかな、と思たんです」
「俺らの仕事はね、肉親には辛い仕事を代行するような仕事だから……」
首をかしげながら言葉を探すときでも、手を動かすことはやめない。プロの仕事はこうなんだな、と思う。
「ご依頼以外のことにあんまり立ち入っちゃいけない。けどまあ、仏さんの身になって、代わりに整理するんだから、心のない仕事はしちゃいけねえ」