男の人としゃべったのは六年ぶりだ。
咲子は気が付き、目を見張る。いやいや、出会いの少ない仕事とはいえ、異性と接する機会がまったくないとは言えない。例えば、ピアノを習いにくる小学生の中にも男の子はいるし、発表会では保護者も観に来る。そうそう、調律の西門さんとは、教室にしている自宅の居間で、半年に一度、二人きりで過ごしているではないか。
しかし、ここでいう男の人とは、恋愛対象になりうる異性の意味だ。
ここまで考えて、咲子は真っ赤になる。私、この人のことをもう好きになってるの? 一分前まで話したことさえなかったのに? たまたま花火大会で隣のシートだった、名前も知らないこの人を?