がれきの向こうに、炎が迫りくる。もうもうと黒い煙を上げながら、怪物のようにのたうつ炎。
こらえ切れないように、祐也先生はうつむいた。苦々しい表情で、それっきり、黙り込んだ。
よどんだ沈黙が、部屋を満たした。心臓の音が、これ以上ないくらいに速く、大きく、体じゅうに響いているのが、丹華には聞こえていた。
丹華の胸は、早鐘を打っていた。
少しだけ開いた窓から、かすかに風が忍び込んでくる。淡いベージュのカーテンが、ふわりと丸みを帯びて、風のかたちに揺れている。
ふと、暗い雲が由衣の眉間にかかった。逸騎は、由衣の表情が変わったのを気にしてか、
「いつ頃って、どういう意味やねん」と、少し不機嫌な声を出した。
朝、ふかふかのふとんの中で目覚めて、カーテンを開ける。太陽が昇って、青空をすみずみまで照らしている。うんと気持ちいい、楽しい一日が始まる。
丹華は、目を閉じて、一心に記憶の糸をたぐり寄せた。
丹華は、自分で自分の肩をぎゅうっと抱きしめて、小さく小さく縮こまって、ただ震えることしかできない。怖くて、苦しくて、気持ち悪くて、酸っぱいものがこみ上げてくるのだった。
目が合った瞬間、丹華の胸が、ことん、と音を立てた。小さな箱の中でビー玉が転がったような、ささやかな音。けれど、確かに、体のすみずみまで響き渡る音。
「よお、ニケ!」
笑顔になって、名前を呼んでくれた。ただそれだけで、丹華は、背中に翼が生えたように、舞い上がりそうな気持ちになるのだった。
丹華は、顔を上気させたまま、小さくうなずいた。そして、復興住宅の裏にある、小さな運動場へと駆けていった。
丹華の小さな胸が、リズミカルにときめいている。
もうすぐ、会える。陽太君に、会える。
ふすまが少しだけ開いていて、そこからとなりの部屋の明かりが漏れ、ふとんの上に細長い筋を作っている。
ゼロ先生が、ぐっと息をのんだ。ふたつの影の片方が、枯れかけたひまわりのように、うなだれた。
ほんとうの気持ちを口にしたとたん、涙が、じわっとこみ上げた。そして、そのまま、こぼれてしまった。
逸騎がしゃがみ込んで、がれきの山の中から必死に何かを掘り出そうとしている。めらめらと燃え上がる炎の舌ががれきをなめる。
「坊主。この子と、その子は、どっちも君の妹か」
逸騎がうなずいた。ほこりで汚れた頬には、涙が幾筋も流れている。いつも妹たちを泣かしてばかりの兄が泣いている。