三上延さんの江ノ島西浦写真館の表現、描写
「……あ、あんな言い方しなくても、よかったんじゃないでしょうか」
口からつるりと文句が洩れた。
繭の声は細かったが、強い糸のように途切れがなかった。
『なにやったんだよ、お前』
ちりっと首筋の毛が逆立つ。嫌な予感がした。
我に返ると、まるでジャンプしたみたいに時計の針が進んでいた。
彼の顔はにわかに引き締まった。自分の胸の内を深く探るように、沈んだ目を空中に向けている。
「……西浦富士子は、他界しました」
そう告げた途端、老女の顔からするりと表情が抜け落ちた。
小柄な年配の女性が写真館に入ってきた。白髪はきれいにセットされていて、カシミアらしいベージュのセーターの上に、あざやかな朱色のストールを羽織っている。
四人の男たちは全員長身で髪が短い。くっきりと整った顔立ちで、意志の強そうな黒々とした眉が印象的だ。
灯台もとっくに完成していた。ごつごつした鉄筋の階段がまとわりついている懐かしいデザインだった。