東野圭吾さんの禁断の魔術の表現、描写
先生は、と鵜飼は続けた。
「ある意味、あの夜から政治家におなりになったと思っております」糸のように細い目から不気味な光が漏れた。「本物の政治家に」
鵜飼の細い目が、ほんの少しだけ見開かれた。
「警視庁からの依頼です」薫はいった。「明日の朝早く、出来れば今夜から、私と一緒に行っていただきたいところがあります」
湯川が顔を上げた。唇の端に薄い笑みが滲んでいる。「デートの誘いか。場所は?」
勝田さん、と矢場は酷薄な目つきで睨みつけてきた。
物理学者の目元が不快そうに曇った。
二人は睨み合った。無言で視線を戦わせた。
大賀の目に冷たい光が宿った。初めて見せる本当の表情だと草薙は感じた。
白髪混じりの髪をオールバックにしており、四角い顔は大きい。学生時代野球をしていたというだけあって肩幅は広く、見たかぎりでは頼りがいのある親分という印象だ。
貯金箱の穴を思わせるような細い目で、鵜飼は草薙と間宮を交互に見た。
「大賀に尋ねたところ、会ったこともないし、名前も聞いたことがないということでした」長岡修の顔写真をテーブルに置き、鵜飼和郎は淡白な口調でいった。平たい顔には表情らしきものが見られない。感情を読みにくい男だ、と草薙は思った。
敷地内を覗いてみると、伸吾はいつもの場所にいた。コンビニの弁当を食べ終わったばかりらしく、ゴミを片付けていた。作業着を脱いでいて、半袖のTシャツ姿だった。むき出しになった二の腕が眩しかった。
「えー、またあ? お母さんにいえば?」由里奈は不機嫌な思いを声に載せた。
その、とっかかりとやらの詳しい内容は聞かないほうがよさそうだと鵜飼は判断し、追従笑いだけをしておいた。
じつは、といってから少し間を置き、相手の男は続けた。「古芝秋穂さんがお亡くなりになりました」
その言葉は、一旦伸吾の脳を素通りした。何を聞いたのか、わからなかった。
「もしもし。聞こえますか? 古芝秋穂さんが……」男は先程と同じ台詞を繰り返した。
頭の中が真っ白になった。
女性にしては長身なほうだろう。瓜実顔で、大きな目はやや吊り上がっている。