野性動物のような躍動感と溢れる熱量を、千佐都は全身で受け止めた。ベッドのシーツは二人の汗で濡れた。
ディスプレイの前に、一人の男性が立っていた。痩せていて、顔も細い。やや広めの額に、白いものが交じった前髪がかかっていた。
「ダンス部の同期に、甘粕萌絵さんという人がいましたね。覚えていますか」
西村弥生の睫がぴくりと動いた。口元に運びかけていたカフェラテのカップをテーブルに戻した。表情が硬くなっている。「覚えていますけど、もちろん……」
「いやだといったら? 中岡刑事にすべて話すといったら」
桐宮玲は形のいい眉をほんの少しひそめた。
「そんなことして、どういう意味があるのですか」
唇に笑みを浮かべているが、目には学者らしい冷徹そうな光が宿っていた。その視線を受け止め、中岡は瞬時に考えを巡らせた。
ドアが開き、痩せた人物が入ってきた。短く切った髪には、少し白いものが交じっている。顔も細いが、決して貧相ではない。黒縁の眼鏡をかけた穏やかな目元には聡明さが感じられる。
羽原博士は感情を表に出さない人だ。初めて会った時からそうだった。端正な顔立ちで特に目力を感じさせることもなく、黙っている時には唇は穏やかに閉じられている。
そんなことを考えていると内ポケットでスマートフォンが震えた。着信表示を確認し、口元を歪めてから電話に出た。「はい」
「よかった。安心しました」桐宮玲は満足そうに頷いた。
少し目尻が下がっているので眠たそうな表情に見えるが、瞼を薄く開いた目には、冷徹に相手を観察するような光が宿っている。最初に会った時にも感じたことだが、油断のならない相手だ。