名取佐和子さんのペンギン鉄道 なくしもの係の表現、描写
殺し屋稼業の似合いそうな鋭い目が糸のように細くなって垂れ、嬉しそうに顔をかがやかせた。犬なら間違いなく尻尾を振っているだろう。
「大学はどうしているんだ?」
潤平の問いに、鈴江の目が泳ぐ。潤平のこめかみにたちまち青い筋が浮き出てきた。
守保はフニャッとやわらかい笑いを漏らして道をあけると、腕時計の盤面を道朗に向けた。
「急いで。あと三分」
若すぎる女社長花山桜子はキシシと歯を見せて笑い、腕を組み直した。
値踏みするような視線が全身に突き刺さるのを感じ、弦は鼻をこすった。
「しっ」
長い人さし指でふっくらした下唇をおさえると、麻尋はそのまま人さし指を足元に向けた。
「聞こえない?」
女子高生の黒目がちな目に細い光の筋が走る。
肩にかかったまっすぐな黒髪からいいにおいがする。サイドと同じ長さまで伸びた前髪を大きな星のついたゴムでひとつに結び、むきだしになった額は滑らかなカーブを描いていた。
赤い髪の青年はフニャッと力の抜けた笑顔を作った。
銀鼠色の海が間近に迫り、無機質でかっこいい造型のコンビナートから吐き出される白い煙は秋の曇り空の分厚い雲と混じり合っている。
「おかえり」
やわらかな声が響いたかと思うと、引き戸の隙間から赤い髪が覗く。
窓にかかったカーテンの隙間からは、朝日の仄白(ほのじろ)い光が射し込んでいた。
錆やペンキの色剥げが目立つ観覧車のフレームを見上げ、響子は十三年分の時間を思う。二十歳の女の子が運命の恋に落ちて結婚してお母さんになる時間。猫の一生が過ぎ去ってしまう時間。