「まりあちゃん、そんなにおっかない顔して料理しないの」
包丁で人参を刻んでいると、さっそく、先生から厳しいヤジが飛んできた。
「料理が、まずくなっちゃうさ。ごはんを作る時はね、常に笑顔で、明るい気持ちで作らなきゃ。料理っていうのは、それを作る人の赤ん坊みたいなものなんだよ。悲しい気分で作ったら、食べる人も悲しくなるじゃない」
「本当はね、みーんな、生まれる時に神様からなんらかの才能をもらっているの。だから、努力すれば全員が天才になれるはずなのよ」
「だってまりあちゃん、すんごい便秘だもん。妊娠すると黄体ホルモンが過剰に分泌されるから詰まっちゃう人もいるけど、まりあちゃんのは、それにしてもひどすぎ。これじゃあ、苦しいはずよ」
「そうなんですね……」
もう何年も食生活が不規則で、一週間くらい出なくても当たり前になっていた。
「自分の体でしょう? しっかり体の声に耳を傾けてあげなくちゃ!」
「決められないなら?」
やっとの思いで口にした声は、自分でも驚くほどに頼りなかった。先生は、しっかりと私の目を見て続けた。
「心を静かにして、自分にとってどうすることが心地よいか、イメージしてみるの。頭であれこれ考えちゃだめ。本能で感じなさい。人間だって、動物なんだから。まりあちゃんにとってどっちが幸せか、それは自分が自分で決めることなの」