ふいに激しい疲労に襲われ、左手をテーブルについて体を支えながら鼻梁をきつく揉んだ。指を離すと、周囲の光景がぼやける。
「知らないわよ!」あおいの言葉が礫(つぶて)になってわたしにぶつかった。
「いや、それは……」声を張り上げかけたが、瀬戸の言葉は大きく開いた口の奥へ沈んだ。
行方知れずになった子どもの身を案じる親の心を一気に砕くには、十分過ぎるやり方である。
再び分厚い沈黙の幕が下りる。
「ふうん」間島が分厚い唇に人差し指を這わせた。まるで何かの感触を思い出そうとするように。
「冗談じゃないぞ。内部の人間を調べるなんて……」デスクの天板を忙しなく指で叩きながら、鳥飼が椅子に背中を預ける。古びた椅子がかすかな悲鳴を上げた。
パトカーと消防車、救急車の赤色灯が、雨でモノクロになった夜景を血の色に染め上げる。
石井の喉仏が大きく上下した。目を細め、眼鏡の奥から私を睨みつける。唇は糸のように引き結ばれていたが、やがて意を決したように口を開いた。
すでに食事は終えているようで、唇の端で爪楊枝をぶらぶらさせ、湯呑みを両手で包みこんでいる。ほどなく、男の顔に薄い笑みが広がり始めた。