シャープペンシルを置き、伸びをした。椅子が微かな悲鳴を上げる。天に両腕を差し上げているうちに欠伸が出た。
心に僅か、波風。我知らず座り直した。彼らはなぜ、所属にこだわるのか。
朝特有の白けた光がブラインドごしに差し込む。桜田は、窓を背にして座る南城が黒い画像に見えた。
「十時半にって言ったよ」梢は頬の中に空気を入れた。「いないんだもん」
すくぞばにある神社の鳥居の下、石段の隅に腰を下ろした。
この裏通りは車通りも人通りもまばらだ。ただ時々、思い出したように砂利ダンプが通り過ぎていく。雲が出始め、いつもより早めの夕暮れを演出している。石段は冷たく尻を冷やす。耳元を微風がくすぐる。
結子はウェイトレスにコーヒーを頼み、小さな顎を自分の手のひらに載せた。
夜がさらに濃くなっていく。
街灯に近づいた能見の影が、長く長く伸びている。
能見は煙草の箱を取り出した。ラクダの絵がひしゃげていた。
自動ドアをくぐると、広い円形のホール。丸天井には三角の天窓。そこから幾筋もの光が差し込み、床にまだらを作っている。
左手にガラス戸で仕切られた焼き場があり、右手には待合室。待合室の中は人が溢れていた。
灰色の煙突から流れ出る淡い煙が、晴朗な空に霧散していく。
錦繍に包まれた小径を、能見亮司は進んでいった。