人生も後半戦! これから先も楽しもう!

人生も後半戦になったら、これまでの生き方に後悔することもあります。しかし、後悔しても仕方ない。この先楽しく生きるためにいろんなことに挑戦

小説から学ぶ表現、描写 沢木冬吾さんの償いの椅子より

沢木冬吾さんの償いの椅子より

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 シャープペンシルを置き、伸びをした。椅子が微かな悲鳴を上げる。天に両腕を差し上げているうちに欠伸が出た。

 心に僅か、波風。我知らず座り直した。彼らはなぜ、所属にこだわるのか。

 朝特有の白けた光がブラインドごしに差し込む。桜田は、窓を背にして座る南城が黒い画像に見えた。

「十時半にって言ったよ」梢は頬の中に空気を入れた。「いないんだもん」

 すくぞばにある神社の鳥居の下、石段の隅に腰を下ろした。

 この裏通りは車通りも人通りもまばらだ。ただ時々、思い出したように砂利ダンプが通り過ぎていく。雲が出始め、いつもより早めの夕暮れを演出している。石段は冷たく尻を冷やす。耳元を微風がくすぐる。

 結子はウェイトレスにコーヒーを頼み、小さな顎を自分の手のひらに載せた。

 夜がさらに濃くなっていく。

 街灯に近づいた能見の影が、長く長く伸びている。

 能見は煙草の箱を取り出した。ラクダの絵がひしゃげていた。

 自動ドアをくぐると、広い円形のホール。丸天井には三角の天窓。そこから幾筋もの光が差し込み、床にまだらを作っている。

 左手にガラス戸で仕切られた焼き場があり、右手には待合室。待合室の中は人が溢れていた。

 灰色の煙突から流れ出る淡い煙が、晴朗な空に霧散していく。

 錦繍に包まれた小径を、能見亮司は進んでいった。