「それは、一言では言えないけど……学問的な興味、友情、そしてもしかしたら、義侠心……?」自分の言葉に自信がないようで、台詞の最後は宙に溶けた。
俺を認めても、その場を動かない。何を求めているのか、集まった人たちはゆっくりと動いているのだが、彼女は小川の中の小石になってしまっている。人々は、彼女を避けるように流れていくのだった。
ウォンの息が電話にぶつかる音が聞こえた。わずかな時間で地獄と天国を見た気分だろう。
「どうした」助手席に座るダガッドが、怪訝そうな表情を浮かべる。
バリは事情を話した。話すだけで、ガラスの破片を飲み込むような苦痛だったが。
黙っていると、エリクソンが喰いしばった歯の隙間から押し出すように言った。
「帰っていい」
「逮捕されるんじゃないのか」
「しない」
「自分の手でタブレットを持ち出して渡すことはできない、と拒否した。代わりに……」
「どこにあるかを教えた?」俺はラーションの消えた言葉を補った。「そして、警備の薄い朝方に侵入するよう、アドバイスしたんですか」
「まだ分かりません」主張する自分の声は頼りなく、宙に消えるようだった。「最後まで諦めませんよ、僕は」
言葉が出てこない。決心も固まらない。
その時、スマートフォンが鳴り、膨らんだ緊張感が、針を刺したように萎んだ。
一つ深呼吸して、スマートフォンをダウンジャケットのポケットに落としこみ、車を停めた場所まで歩き出す。
ナビに図書館の住所を叩きこみ、アクセルを思い切り踏みこむ。すぐに右折して橋を渡り、前を行くボルボのバンパーに噛みつく勢いでアクセルを踏み続ける。
カウンター席が空いていたので腰かけ、カフェラテを注文する。
暖かなフォームミルクで上唇に髭ができたところで、スマートフォンが鳴った。
しかしゴバディがまったく知らないその言葉は、妙に耳にまとわりつき、溶けた飴のようにゆっくりと流れて頭に入りこんだ。