人生も後半戦! これから先も楽しもう!

人生も後半戦になったら、これまでの生き方に後悔することもあります。しかし、後悔しても仕方ない。この先楽しく生きるためにいろんなことに挑戦

堂場瞬一さんの「チーム」から表現、描写を学ぶ

チーム

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私は定年後に趣味と実益をかねて小説を書けるようになりたいと思っています。

今でも、とりあえず書いているのですが、なかなか難しい。

短編を書くのがやっとで、その出来上がった小説を読み返してみると、なんとひどいことか。

ガックリ

そこで、小説家の方々の素晴らしい表現、描写をここに残して、身につけていこうと思っています。

私と同じように小説家の表現、描写に興味のある方はご覧下さい。

今回は堂場瞬一さんの『チーム』です。

 頬を削るように吹きつける冷たい風が、目を乾燥させるーー瞬きしても涙も零れないほどに。

 一度大きくうなずくと、顎を上げ、マイクが必要ないような大声で結果発表を宣言した。集まった人たちのざわめきを貫き、その声が浦の耳にはっきり届く。

 吉池の言葉は、頭の中で化石のように固まっていた。

 会話が手詰まりになる。その瞬間、浦の携帯電話が鳴り出した。メールの着信。ちらりと青木の顔を見やってから差出人を確認した。全身が総毛立つのを感じる。中央大学の広瀬翔。永遠のライバルーー少なくとも浦はそう思っている。

 結露した窓ガラスに人差し指を走らせ、無意味な模様を描き綴る。大きな粒になった水が垂れ、窓ガラスに太い筋をつけた。

 吉池はしばらくその場に立ち止まったまま、上野が手渡したクリップボードに視線を落としていた。眉間に皺が寄り、白いものが混じった眉毛が二匹の毛虫のように捻じ曲げる

「山城」浦が声をかけると、山城は絡みつくような視線を浴びせてきた。その場の空気が凍りつき、ひりひりとした緊張感が漂う。

 山城が軽く舌打ちしたようだった。吉池は壁から背中を引き剥がして彼の言葉を待ち構えたが、結局一言も喋らずに、また椅子の上でだらしなく崩れてしまった。

「二十一秒。いい感じだよ」言って、吉池はシートに背中を押しつけた。「さあ、二区だ。まだまだ先は長いぞ」

「駄目です」門脇の声は、吉池の喉元に突きつけられた刃のようだった。

 雪はすっかり上がっており、名残は道路の端が薄らと白くなっていることだけだ。夜空は高く晴れ上がっており、冷たく凍りついた空気が肌を突き刺す。吐く息が白い塊になって顔の周りを漂ったが、夕方の天気予報で「明日は三月並みに暖かくなる」と言っていたのを思い出す。

 背中に張りついていた凝りは解れたが、心を食い荒らす緊張感は去ってはくれなかった。それどころか、ますます声高に自己主張を始める。怪我は大丈夫なのか? 去年のプレッシャーを忘れてないか? お前なんかが箱根のアンカーを走っていいのか。

 吉池は、顔にふやけた笑いが張りついているのを意識した。

 来た。例によって強烈な横風。かすかに水の香りを孕んだ湿った風が体を打つ。

 風が吹く。陽射しの強さからは想像できないほど冷たい、針のような鋭さを持った風で、横殴りに頬を貫いた。その一瞬で完全に目が覚める。

 苦しんでいるのは広瀬も同じだった。今や顎が上がり、空気を求めてあえぐ音は壊れたポンプのようだ

 向こうでさっさと胴上げでもしてろ。だが文句をつけようとしても、渇いた喉は張りつき、言葉が出なかった。

 赤く潤んだ目から涙が一筋流れ落ちて、乾いた頬に小さな川を作った。