私は定年後の趣味と実益になればと、小説を書くことに挑戦しています。
しかし、出来上がった自分の小説を読み返してみると、自分の表現力や描写の稚拙さに情けなくなり挫折しそうになります。
小説家の方々の素晴らしい表現、描写をここに残して、身につけていこうと思っています。
今回は有川浩さんの『旅猫リポート』です。
有川浩さんの作品は、どの作品も感動させられて素晴らしい作品ばかり。
大ファンです。
表現、描写も、活字だけを見ているだけのはずなのに映像を見ているかと勘違いするくらいです。
目の前に、登場人物の表情やしぐさ、風景がドンドンと勝手に浮かびます。
こんな表現、描写に憧れます。
教室がざわめき、美人な担任の笑顔には動揺の大きな亀裂が入った。
午後の授業中、暑いなと思って校庭にふと目をやると、地面にゆらゆらかげろうが立っていた。
もう真夏日の予報が出ることも珍しくない季節である。
「親の離婚なんてよくある話だもんな」
軽い口調で言おうとしたが、声のしっぽがわずかに震えた。
食べて跳ね回って電池が切れたようにところかまわず寝オチするお年頃だ。
「ありがとう、ばあちゃん」
「かまやしないよ」
祖母はにこにこ笑ってそう言った。
「あんたたちが何の理由もなく決まりを破ったりするわけないからね」
ぐぅっと喉に柔らかなかたまりが詰まった。
小さな嘘を吐(つ)こうとしたが、気持ちがガラスの粉を吹いたようになった。怪我をするほどてはないがざらざらして、結局こらえきれない。
夕日の峠を一つ越えるとまた人里戻ってくる。辺りは刻々と暗くなり、夜と追いかけっこのように銀色のワゴンは夕闇の中を進む。
浅い弧を描く虹の足はしっかりと丘を踏みしめている。その弧を追っていくと、もう一方の足も別の丘を踏みしめていた。
悟は何も悪くないのに、叱りつけるようにそう言った。脳が焼けて抑制が利かない。
子供を持つ夫婦がみんなお姉ちゃんたちみたいだったら、こんな事件は起きないのに。
言ってしまってから背中を冷たい汗が流れ落ちた。 ーー姉は子供ができない体質だということが結婚してから分かった。
どうして相談してくれなかったのか、と責める恋人に、自分の甥のことだから相談する必要はないと思った、と答えた。
その瞬間、恋人の表情にシャッターが下りたのが分かった。
いよいよか。鉛のかたまりを飲み込んだような気持ちで、横殴りの雪の中を病院へ向かった。