東野圭吾さんの嘘をもうひとつだけの表現、描写
日は沈みかけても、地面の発する熱量にはあまり変化がないようだった。
胸に衝動がこみあげてきた。それは忽(たちま)ち彼の涙腺を刺激した。しかし彼は懸命に涙をこらえた。
間もなく美枝子は車のエンジンを止めて、運転席から降りてきた。真っ赤なTシャツに、グレーのキュロットスカートを穿いていた。そこから伸びる脚は白くて細かった。
美千代の心臓は限界に近いほど大きく跳ねていた。冷や汗が腋(わき)の下を流れていく。手足が冷たい。
「ああ、そうだったわね」美千代は煙草をくわえ、火をつけた。深く吸い込み、細く白い煙を吐いた。
加賀の淡々とした口調で、空気が濃密になっていくようだった。美千代は息苦しさを覚えた。