私は定年後の趣味と実益にと、小説を書くことに挑戦しています。
しかし、出来上がった自分の小説を読み返してみると、自分の表現力や描写の稚拙さに情けなくなり挫折しそうになります。
小説家の方々の素晴らしい表現、描写をここに残して、身につけていこうと思っています。
私と同じように小説家の表現、描写に興味のある方はご覧下さい。
「力になれることがあったら遠慮なく言ってくれ」
優しく声をかけて出ていったが、持田がドアを閉じ、内側から鍵をかけたとたん、美恵子は床が抜け落ちていくような絶望感に襲われた。
誰よりも長い付き合いの持田でさえ、裕輔が犯人であると認めざるをえないのだ。
「そうか。都会で生活できてうらやましいな。妹さんは元気か」
「ああ……」
美恵子のことを思い出し、心を暗い影が覆った。
そんな生活の中で、篤史は次第にどす黒い不満を胸の中に溜め込んでいった。
「そうかな……」
篤史は涙を拭って、裕輔を見つめた。
「おれの母親も人殺しだけど、お前の母親とは大違いだ」
その瞬間、背中が粟立った。裕輔は激しい怒りを宿した視線を宙に向けていた。
今までの付き合いの中で、あんなに怖い裕輔を見たのは初めてだった。
「嘘よ!」篤史を睨みつけた。
視界が滲んでいて、篤史がどんな表情をしているのかよくわからないが、ゆっくりと首を振ったのはわかった。
武藤は約束という言葉を心に留めながら立ち上がり、座敷から出た。
カウンターの中にいる若い職人から絡みつくような視線を感じながら、ドアに向かった。
「泥棒ーー誰か助けて!」
裕輔はすぐに立ち上がり、先ほど入ってきたほうではない裏庭の奥に向かって走った。
地面を踏みしめるたびに焼きごてを押し当てられるような、尋常ではない痛みを感じながら、無我夢中で走る。
「なあ……ちゃんと食べないと倒れちまうぞ」
篤史は声をかけたが、美恵子はその動作だけでも苦しいというように、かすかに頷いただけだ。
チャイムが鳴った。
でも、ゼンマイが伸びきった人形のように、これから自分がどんな動作をすればいいのか、それすらもわからないほど倦怠感にからだが支配されている。
チャイムが二度、三度と鳴らされた。
「お母さんに会いたいですか?」
そう問いかけると、美恵子の眼差しが大きく揺れた。
小沢がどうして母親に会おうとしたのかを知りたいという想いと、人殺しの母親に会うことの拒絶感が心の中でせめぎ合っているのかもしれない。
文恵が深い絶望と悲しみを堪えた眼差しで見つめてくる。やがて頷いた。