「じゃあ解剖して何も出てこなかったとして、あんたは責任が取れるのか、栂野先生」
「どうして、ここで責任の話が出てくるんですか」
「何だって」
「今はとにかく解剖して死因を特定するのが最優先です。責任追及なんて、その後からゆっくりやればいいじゃないですか」
「いかにも世間知らずな物言いだな」
「わたしには、世間よりも知らなきゃいけないことが沢山あるんです」
「お前の物言いは犯罪を憎んでおらん。犯人を憎んでおるだけだ」
はっとした。
これは真琴が研修医として内科に配属された際、担当医から受けた忠告に似ている。
『あまり一人の患者に肩入れしてはいけない。感情は判断を狂わせる元凶だからね』