「ここ数十年で、時計は飛躍的に正確に時を刻むようになりました。少々の安物でも一日に一秒も狂いません。でもその結果、約束の時間に遅れる人が増えた、という説があるのを御存じですか」
「いや、知らないな。そうなんですか」
「下手に正確な時刻がわかるものだから、ぎりぎりまで時間を自分のために使おうとしてしまうんです。結果、遅刻する。そういう人には、あまり信頼の置けない時計を持たせるといいそうです。遅れているかもしれないと思うから、常に余裕を持って行動しなけれぼなりません」
「ははあ、なるほど」新田は頷いてから、首を傾げた。「今の話とどういう関係が?」
「時計に頼りすぎてはいけないのと同様、御自分の感覚だけを頼りにするのは危険です。時間と同様、心の距離感にも余裕が必要だ、といいたいのです」尚美は刑事の目を見つめていった。「過信は禁物です」