書き出し
公園は白い雪に覆われていた。陽の光に照らされた雪がきらきらと輝いている。
佐和子は眩しい光景に目を細めた。
「ママ、まっしろだね」
娘の留美が大きく目を見開いている。
昨日まで遊んでいた公園とあまりにもちがう光景に驚いているのだろう。三歳の留美にとっては初めて実感する雪かもしれない。
ラーメン店のカウンターから窓の外を見ていると、道行く人の数が次第に多くなっていくのがわかる。通行人が吐く白い息が、まるで欲望の熱で雪を溶かす蒸気のように見えてくる。
坂本はリビングに出ると廊下で電話に出た。
「あなた! 大変なの。すぐに家に帰ってきて!」
佐和子の悲鳴が聞こえてきた。鼓膜をきーんと貫くような痛みが走る。
男と目が合った瞬間、足元が沈み込んでいく妙な感覚に襲われた。破裂しそうなほどの動悸がからだの中を揺さぶる。